Ⅰ「債務不履行」


「債務者が、契約等から生じた債務の履行を果たさないこと。」


「債務不履行は、① 履行が可能であるにもかかわらず、履行期に履行しない場合(履行遅滞)、② 履行が後発的に不能になった場合(履行不能)、③ 債務の果たした義務が契約の内容としては不完全である場合(不完全履行)の3つの類型に分類することができる。」


Ⅱ「履行遅滞」


「履行遅滞になったとき、債権者が取り得る手段として、① 現実的履行の強制(強制履行)、② 損害賠償請求、③ 契約の解除がある。」


1.現実的履行の強制(強制履行)


a 要件


・債務者が履行期に任意に債務の履行をしないこと。

・債務者の「責めに帰すべき事由」は不要


b 強制履行の態様


・ 直接強制(414条1項)


・ 代替執行(414条2項)


・ 間接強制(民事執行法172条)


2.損害賠償請求(415条前段)


a 要件


・履行可能であること

・履行期を徒過したこと

・履行期に遅れたことが違法であること

・債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと(帰責事由)

・損害の発生したこと

・損害と債務不履行との間の因果関係があること


b 効果


・損害賠償請求権の発生


「履行が遅延することによって生じた損害の賠償(遅延賠償)を請求することができる。」


・損害賠償の方法


「別段の特約がない限り、金銭により賠償(417条)。」


・損害賠償の範囲


(原則)


通常なら生じる損害(通常損害)の額だけ請求できる


(例外)


債務者が特別な事情を予見していた、あるいは、予見することができた場合は、特別な事情から生じた損害(特別損害)の額まで請求できる。


・過失相殺(418条)


「債務不履行に関し、債権者にも過失があったときに、その過失を考慮して、債務者の損害賠償の有無及び範囲を定めること。」


・損害賠償額の予定(420条)


「債務不履行の場合に債務者が賠償すべき額をあらかじめ当事者間の契約で定めておくことをいう。」


3.契約の解除(541条)


「契約が締結された後に、その一方当事者の意思表示によって、その契約を初めから存在しなかったのと同様の状態に戻すこと。」


a 要件


・履行が可能であること

・履行期を徒過したこと

・履行期に遅れたことが違法であること

・債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと(帰責事由)

相当の期間を定めて催告すること

・解除の意思表示をすること


b 効果


・当事者間での効果


「解除によって契約は当初から存在しなかったことになり、契約から生じた効果は遡及的に消滅する。」


「解除がなされたら、当事者は互いに契約前の状態に回復させる義務を負う(原状回復義務:545条1項)


「なお、原状回復すべきものが金銭である場合には、受け取ったときからの利息を付けて返還しなければならない(545条2項)。」


・第三者に対する効果


「解除によって第三者の権利を害することはできない(545条1項但書)。」


Ⅲ「履行不能」


「履行不能となったときに、債権者がとり得る手段として、① 損害賠償請求、② 契約の解除がある。」


1.損害賠償請求(415条後段)


a 要件


・履行が後発的に不能となること

・履行不能が違法であること

・債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと(帰責事由)

損害の発生したこと

・損害と債務不履行との間に因果関係があること


b 効果


本来の履行に代わる損害の賠償(填補賠償)を請求できる。


2.契約の解除


a 要件


・履行が後発的に不能となること

・債務者の責めに帰すべき事由に基づくこと(帰責事由)


b 履行遅滞いおける解除の効果と同様。


Ⅳ「不完全履行」


「不完全履行の場合、完全に義務を果たすことが可能な場合(追完が可能な場合)には、履行遅滞と同じ処理になる。対して、完全に義務を果たすことが不可能な場合(追完が不可能な場合)には、履行不能と同じ処理になる。」