「司法権」


1.司法権の意義(憲法76条1項)


「具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家作用。」


2.司法権の範囲


「民事事件」「刑事事件」「行政事件」


3.法律上の争訟


「①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争があって、かつ、②それが法律を適用することにより終局的に解決することができるもの。」


①「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争があること。


抽象的に法律の解釈又は効力を訴訟で争うことはできない。(判例)


②「法律を適用することにより終局的に解決することができるものであること。


板まんだら事件:最判昭56.4.7>


争点:

純然たる信仰の価値、又は、宗教上の教義に関する判断自体を求める訴えは、法律上の争訟にあたるか。


結論:あたらない。


4.司法権の限界


a 憲法の明文上の限界


・議員の資格争訟の裁判(憲法55条)


・裁判官の弾劾裁判(憲法64条)


b 国際法上の限界


c 憲法の解釈上の限界


・自律権に属する行為


「議事手続(憲法56条)懲罰(憲法58条2項)等、国会、又は、各議院の内部事項については、他の機関からの圧迫や干渉を加えられずに自主的に決定できる権能のこと。」


・自由裁量に属する行為


「国会や内閣などの自由裁量に属する行為。」


・統治行為論


「国会機関の行為のうち、極めて高度な政治性のある行為については、裁判所の司法審査の対象とならないという理論。」


苫米地事件:最大判昭35.6.8>


争点:衆議院の解散は司法審査の対象となるか。

結論:ならない。


砂川事件 :最大判昭34.12.16>


争点:日米安全保障条約は違憲審査の対象となるか。

結論:ならない。


・部分社会の法理


「一般市民の秩序と直接関連ないし純然たる内部紛争は、司法審査の対象にならないという考え。」


地方議会議員懲罰の司法審査:最大判昭35.10.19>


争点:

地方議会議員に対する出席停止の懲罰議決の効力について司法審査が及ぶか。


結論:及ばない。(もっとも除名処分については及ぶ。)


共産党袴田事件:最判昭63.12.20>


争点:

政党の党員の除名処分は司法審査の対象となるか。


結論:原則として、対象とならない。


5.司法権の帰属


a 特別裁判所の禁止(憲法76条2項前段)


b 行政機関による終審裁判の禁止(憲法76条2項後段)


「裁判所の組織と権能」


1.裁判所の組織(憲法79条1項・79条5項・80条1項)


2.最高裁判所裁判官の国民審査(憲法79条2項3項4項)


3.裁判所規則制定権(憲法77条1項2項3項)


4.裁判の公開(憲法82条1項2項)


a 原則


「裁判の対審と判決は、公開されるのが原則。」(憲法82条1項)


b 例外


・非公開にするための要件


「①裁判官が全員一致で、②公の秩序、又は、善良の風俗を害するおそれがあると判断した場合。」


・非公開が許されない場合


「国民の人権にとって重要なもの、すなわち①政治犯罪、②出版に関する犯罪、③憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件については、常にその対審を公開しなければならない。」


「司法権の独立」


1.司法権の独立の意義


2.司法権の独立の内容


a 司法権独立の原則の内容


・裁判官の職権の独立


・司法府の独立


b 裁判官の職権の独立(憲法76条3項)


c 行政機関による裁判官の懲戒処分の禁止(憲法78条後段)


d 下級裁判所裁判官の指名(憲法80条1項)


3.裁判官の身分保障


a 身分保障の内容


①罷免事件の限定 ②行政機関による懲戒処分の禁止 ③相当額の報酬の保障


b 裁判官が罷免される場合(憲法78条前段)


①心身の故障 ②公の弾劾 ③国民審査


c 行政機関による懲戒処分の禁止(憲法78条後段)


d 相当額の報酬の保障(憲法79条6項・80条2項)


「違憲審査権」


①特別に設けられた憲法裁判所が、具体的争訟と関係なく、抽象的に違憲審査を行う方式(抽象的違憲審査制)


②通常の裁判所が、具体的な争訟事件を裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で、適用法条の違憲審査を行う方式(付随的違憲審査制)


重要論点


Q.わが国の制度は付随的違憲審査制か、あるいは抽象的違憲審査制をも認めるものか。


A説:通説・判例


結論:付随的違憲審査制のみを認めている。


理由:

①違憲審査権を定める81条は、第6章「司法」の章にあるところ、司法とは、具体的な権利義務に関する争いを前提として、それに法令を適用し紛争を解決する作用である。

②抽象的審査制を予定した規定(提訴要件や判決の効力等)が現行憲法上にはない。


<B説:抽象的違憲審査制>


結論:

最高裁判所には憲法裁判所的権限が認められており、直接最高裁判所に対してこの権限の行使を認めることができる。


<C説:有力説>


結論:法律や裁判所規則でその権限の手続を定めれば、最高裁判所に憲法裁判所の機能を付与し得る。


理由:81条が、最高裁判所に対し、憲法裁判所的性格を積極的に与えているとは解されないが、かといって禁ずる趣旨にも解されない。


重要論点


Q.最高裁判所の違憲判決はいかなる効果を有するか。


<A説:個別的効力説>


結論:

違憲判決の効力は当該事件止まりであり、違憲とされた法令は当該事件についてのみその適用を排除される。


理由:

① 我が国の意見審査制が付随的審査制である以上、違憲審査権は具体的な争訟事件の解決に必要な限りにおいてのみ行使される。よって、違憲判決の効果も当該事件に限り認められるべきである。

② 法律を一般的に無効とする事は、一種の消極的立法であり、国会のみが立法権を行使するという憲法41条の原則に反する。


<B説:一般的効力説>


結論:最高裁判所によって違憲とされた法律は、当該事件を超えて一般的にその効力を失う。


理由:

① 98条1項にあるように、違憲の法律はおよそ効力を持ち得ない。

② 個別的効力しか認めないとすると、同じ法律がある事件では無効、他の事件では有効ということになりかねず、法的安定性、予測可能性を欠き、また法の下の平等に反する。


<C説:法律委任説>


結論:

憲法上、違憲判決の効力について個別的効力か一般的効力か一義的には定められておらず、法律の定めるところに委ねられている。