「行政権と内閣」


1.行政権の概念(憲法65条)


「すべての国家作用のうちから、立法作用と司法作用を除いた残りの作用。」


2.議院内閣制


a 意義


「議会と政府を一応分離したうえで(権力分立)、内閣が国会に連帯責任を負い、国会の信任が内閣の存立のために必要(民主的責任行政)なシステムのこと。」


b 日本国憲法における議院内閣制


・内閣の連帯責任の原則」(憲法66条3項)


・衆議員の内閣不信任決議権(憲法69条)


・内閣総理大臣の指名権(憲法67条1項)


・内閣総理大臣及び国務大臣の過半数が国会議員であること(憲法67条・68条1項但書)


・内閣総理大臣、国務大臣の議員出席の権利と義務(憲法63条)


3.衆議員の解散


a 意義


「任期満了前に議員全員の資格を失わせる行為。」


b 解散権の根拠(憲法7条3号・69条)


c 解散権の所在


重要論点


Q.解散権の根拠は何に求められるか。


<A説:69条限定説>


結論:69条に根拠を求める。同時に解散権の行使は、69条の場合に限定される。


理由:

① 69条は内閣不信任に対抗しての解散を考えていると解すべきであり、そうだとすれば、内閣が解散権を持つと解するのが自然である。

② 解散の実質問題について、69条にしか規定がないということは、69条の場合に限定して解散を認める趣旨である。


批判:解散権を行使できる場合が著しく限定される。


<B説:65条説>


結論:行政の概念に結論を求める。


理由:

行政概念についての控除説にたち、解散権は立法でも司法でもないから行政であり、ゆえに内閣に帰属する。


批判:

控除説の前提としての全国家作用は、「国民支配作用」と考えるべきであるところ、そこに解散権は含まれないから、控除しても行政には残らないはずである。


<C説:制度説>


結論:議院内閣制という制度に根拠を求める。


理由:

日本国憲法では議院内閣制を採用しているところ、議院内閣制においては、内閣に自由な解散権が認められるのが通例である。


批判:

議院内閣制において、内閣に自由な解散権が認められることが通例であるかどうか疑問である。


<D説:7条説>


結論:内閣の助言・承認権に根拠を求める。


理由:

① 天皇の国事行為が「国政に関する権能」という性質を持たないのは、助言と承認によって、内閣が実質的決定権を有するからである。故に、解散権についても、天皇の国事行為とされているところから、内閣が実質的に決定権を有する。

② 解散を定める7条3号は、解散につき何らの制限もつけていない。


4.独立行政委員会


「①合議制の行政機関であり、②内閣から独立して職務を遂行し、③通常、立法権ないし司法権に準ずる機能を持つという特徴を有する制度のこと。」


【重要論点】


Q.独立行政委員会は、憲法65条に反しないか。


<A説:合憲説Ⅰ(65条は一切の例外を認めていないと考えるアプローチ)>


結論:

独立行政委員会も内閣のコントロール下にあり、合憲である。


理由:

通常、内閣が委員の任命権を持ち、委員会の予算編成権を持つことから、内閣のコントロール下にあるといえる。


批判:

任命権と予算編成権だけで内閣のコントロール下にあるといえるなら、裁判所についても同様になってしまう。


<B説:合憲説Ⅱ(65条は一定の例外を認めていると考えるアプローチ)>


結論:

65条は、すべての実質的行政を内閣に帰属させることを要求するものではないから合憲である。


理由:

① 65条は、76条と異なり、「すべて行政権は」と述べてはいない。

② 行政権が内閣に属するというのは、立法権、司法権が内閣に属しないことに意味があるから、内閣以外の機関が行政権を行使しても、権力分立の目的に反するとまではいえない。

③ 民主主義の観点からすれば、行政委員会が内閣から独立に権限を行使しても、その行政委員会を国会が直接コントロールし得る体制になっているか、あるいは職務の性質上内閣のコントロール下に置くことが適切でなく、同様に国会のコントロールにも適さない場合には、内閣のコントロールをうけないとしても問題ない。


「内閣の組織」


1.内閣の組織


a 内閣総理大臣及びその他の国務大臣(憲法66条)


b 内閣構成員の資格


・文民であること

・国会議員であること・・・内閣総理大臣及び国務大臣の過半数は国会議員


2.内閣総理大臣


a 意義


内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で指名され、天皇が任命する。


b 権限


・国務大臣の任免権(憲法68条)


・内閣を代表して議案を国会に提出する等の権限(憲法72条)


・法律、政令に連署(憲法74条)


・国務大臣の訴追に対する同意(憲法75条)


3.内閣の総辞職


・衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときに、10日以内に衆議院が解散されない場合。(憲法69条)


・内閣総理大臣が欠けた場合(憲法70条前段)


・衆議院議員総選挙の後、初めて国会の召集があった場合。(憲法70条後段)


「内閣の権能と責任」


1.内閣の権能


a 内閣の主要な権能(憲法73条)


・法律の誠実な執行と国務の総理


・外交関係の処理


・条約の締結


・官吏に関する事務の掌理


・予算の作成と国会への提出


・政令制定権


・恩赦の決定


b 他の機関との関係における権能


・天皇との関係(憲法7条)・・・内閣の助言と承認


・国会との関係(憲法53条・52条2項)


・裁判所との関係(憲法6条2項・79条1項・80条)


c 予算・財政上の権能(86条・87条1項・90条1項・91条)


2.内閣の責任


「内閣は、 行政権全般について国会に連帯して責任を負う。」