「表現の自由の意味」(憲法21条 )
1.「表現の自由」の価値
「表現の自由を保障する目的」
言論活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な意義。(自己実現の価値)
国民主権の原理の下で、国民が政治に参加し、民主的な政治を実現するという社会的意義。(自己統治の価値)
2.知る権利
「国民が自由に情報を受け取り、又は国家に対して情報の公開を請求する権利」
明文規定は憲法上存在しないが「21条1項」で保障されるものと考えられる。
3.反論権(アクセス権)
<サンケイ新聞事件 :最判昭62.4.24>
争点:反論権は、21条によって認められるか。
結論:認められない(具体的な法律が必要である)
「表現の自由の内容」
1.集会・結社の自由
a 集会の自由
b 公共施設の使用の許可制の合憲性
<上尾市福祉会館使用不許可処分事件 :最判平8.3.15>
争点:市民会館等の公共施設利用について、条例等で許可制をとっているケースの合憲性の問題
結論:「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こす恐れがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、・・・・警察の警備などによってもなお混乱を防止することができない等特別な事情がある場合に限られる」として当該不許可処分を違法とした。
c 集団行動の自由と限界
<新潟県公安条例事件 :最大判昭29.11.24>
争点:集団行動を規制する、地方公共団体の公安条例の合憲性
結論:一般的な許可制を定めて、集団行動を事前に抑制することは許されないが、特定の場所又は方法について合理的かつ明確な基準のもとで許可制をとること、さらに公共の安全に対し明らかな差し迫った危険を及ぼすことが予見されるときは許可しない旨を定めることは許される。
<東京都公安条例事件 :最大判昭35.7.20>
争点:集団行動に対して許可制を定めて事前に抑制する東京都公安条例は21条に違反しないか。
結論:違反しない。
d 結社の自由
2.報道の自由と取材の自由
a 報道の自由
報道機関の報道は、国民の知る権利に奉仕するものであり、事実の報道の自由は表現の自由を規定した21条の保障の下にある。
b 取材の自由
・取材の自由の保障
報道機関の報道が正しい内容を持つためには、報道のための取材の自由も、21条の精神に照らし、十分尊重に値する。
・取材の自由と公正な裁判実現の要請との調整
表現の自由と同様に、公正な刑事裁判を実現(憲法37条1項)するためのも報道機関の取材により得たものが証拠として必要となる場合もある。
<博多駅テレビフィルム提出命令事件 :最大判昭44.11.26>
争点:①取材の自由は憲法上保障されるか。②裁判所による取材ビデオテープの押収は、21条に反し違憲か。
結論:①21条の精神に照らし、十分尊重に値する。②合憲。
・取材の自由と適正迅速な捜査の遂行の要請と調整
<日本テレビ・ビデオテープ押収事件:最決平1.1.30><TBSビデオテープ押収事件 :最決平2.7.9>
争点:捜査機関が、報道機関の取材活動により得られたものを証拠として押収することは、取材の自由を侵害し、違憲とならないか。
結論:検察官ないし警察官による報道機関の取材ビデオテープの差押え、押収についてまで、公正な裁判の実現に不可欠な、適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合には認められる。
・国家機密との関係
<外務省秘密電文漏洩事件 :最決昭53.5.31>
争点:報道機関による政府情報の取材につき、国家公務員法の定める「そそのかし」罪が成立するか、取材の自由の限界が問題となる。
結論:取材行為の許されない限界について、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである場合には、刑法35条 で違法性は阻却されると解す。
・法廷における取材制限
<レペタ事件 :最大判平1.3.8>
争点:裁判の法廷において傍聴人がメモをとる行為について。
結論:人権ではないが、21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきであり、特段の事情がない限り、傍聴人の自由に任せるべき。
3.性表現と名誉棄損的な表現
a 表現の自由と名誉等の関係
「表現の自由に含まれる」
利益衡量を図りつつ、表現の自由の価値に比重を置きながら、表現内容の規制をできるだけ限定すべき。
b 名誉との調整
①「人の名誉を侵害することはできないので、名誉棄損罪(刑法230条 )による制約を受ける。」
しかし、②「名誉棄損にあたると思える表現の中にも、国会議員や官僚等の資質を世に問うための表現等は、社会的価値が認められる場合がある。」
①と②の調和を図るために、刑法230条の2 という規定を設けた。
刑法230条の2第1項
「その表現が名誉棄損的な表現であっても、①公共の利害に関する事実であって、②公益目的で、③内容が事実であると証明されれば処罰はしない。」と規定されている。
c プライバシー権との調整
<「宴のあと」事件 :東京地判昭39.9.28>
事案:原告は、小説中において私生活を「のぞき見」し、もしくは「のぞき見したかのような」描写は、堪え難い苦痛であり、プライバシー権の侵害であるとして、著者である三島由紀夫と出版社を相手どり、謝罪広告と損害賠償を請求して訴えを提起した。
争点:プライバシーの侵害が認められるための要件は何か。
結論:【3要件】
①私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれのある事柄であること。
②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められる事柄であること。
③一般人の人々に未だ知られていない事柄であること。
d 選挙運動の自由
<戸別訪問禁止規定違反事件:最判昭56.6.15>
争点:公職選挙法の定める戸別訪問禁止規定は合憲か。
結論:合憲である。
判旨:①戸別訪問は買収や利益誘導の危険性がある。②情実・感情による投票の左右。③選挙人の迷惑。④過当競争により候補者が煩に堪えない。等の理由から合憲であるとする。
「表現の自由の限界」
1.二重の基準の理論
a 二重の基準の理論の意義と根拠
「二重の基準の理論」
表現の自由等の精神的自由の規制立法は、職業選択の自由等の経済的自由の規制立法よりも厳格な審査基準で審査されるべきであるという考え方。
b 二重の基準の理論の具体化
・精神的自由権を制約する法律の憲法判断
裁判所が積極的に介入し、厳格な審査基準の下に憲法判断を行う。
・経済的自由権を制約する法律の憲法判断
裁判所が積極的に介入するというよりは、国会の判断を尊重していくべきこと。
2.厳格な審査基準1~事前抑制の理論
・事前抑制の理論の意義と根拠
「表現行為がなされるに先立ち、公権力が何らかの方法でこれを抑制すること、及び実質的にこれと同視できるような影響を表現行為に及ぼす規制方法は、原則として排除されるべきだとする理論。
・検閲の禁止(憲法21条2項)
「検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認められるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解す。」(判例)
「このように検閲概念を非常にせまく定義したうえで、検閲を例外なく絶対的に禁止している。」(判例)
<税関検査合憲判決 :最大判昭59.12.12>
争点:①検閲の意義。②税関検査は検閲にあたるか。
結論:①「検閲とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査した上、不適当と認められるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解す。」
②検閲にあたらない。
<「北方ジャーナル」事件 :最大判昭61.6.11>
争点:①出版差止めは検閲にあたるか。②事前抑制は憲法21条で禁止されているか。
結論:①検閲にあたらない。②原則として禁止されているが、厳格かつ明確な要件のもとで許される。
<第一次家永教科書事件・上告審 :最判平5.3.16>
争点:教科書検定は検閲にあたるか。
結論:あたらない
3.厳格な審査基準2~明確性の理論
「精神的自由を規制する立法はその要件が明確でなければならないという考え方。」
「法文が漠然不明確な法令は表現行為に対して委縮効果を及ぼすため、原則として、無効となる」
→「漠然性ゆえに無効の理論」
「法文が一応明確でも、規制の範囲があまりにも広範で違憲的に適用される可能性のある法令は、その存在自体が表現の自由に重大な脅威を与えるため、不明確な法規の場合と何ら異ならない。よって、原則として無効となる。」
→「過度の広汎性ゆえに無効の理論」
<徳島市公安条例事件 :最大判昭50.9.10>
争点:刑罰法規の明確性の判断基準。
結論:一般人の理解を基準とする。