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聾盲者フィニー・シュトラウビンガーを追うドキュメンタリー。
ヴェルナー・ヘルツォーク監督の初期作品です。
聾盲者とは視力、そして、聴力までも失った人のことを言います。
この作品は、56歳の女性聾盲者フィニーのこれまでの人生と現在の活動を追ったドキュメンタリーです。
フィニーは9歳の頃、階段から落ち後頭部を強打したことで次第に視力が薄れ、15歳9ヶ月で完全に失明、さらに、18歳で難聴が始まり、その後、何も聞こえなくなってしまいました。
フィニーは30年間、寝たきりの生活を過ごし、56歳の現在、ようやく生きる活力を取り戻していました。
映像に映し出されるフィニーはとても愛らしく、積極的に人と触れ合うように努めています。
でも、彼女の世界は「闇と沈黙の世界」・・・。
もし、自分が聾盲になったら・・・。
映画。
音楽。
美しい風景。
人の笑い声。
すべてが奪われてしまいます。今の仕事にも就けなくなるなぁ・・・生きていくことすらできないかも・・・。
彼女がこの作品に出演した理由の1つに聾盲者への社会的な地位を確立させることがありました。
聾盲者でも何かできるはず・・・彼女はそれを知ってもらおうと必死でした。何のプランも提示していませんでしたが、まずは多くの人に聾盲者の存在を知ってほしかったのかも知れませんね。
聾盲者たちのコミュニケーション手段は肌に触れる触感と「触読」でした。
この「触読」を考えた人はすごいですね。手のひらを指でなぞることでコミュニケーションをとることができます。
フィニーは付添人のレジと共に、自分と同じ境遇に立たされている者たちを訪問し元気づけようとするのですが・・・。
唯一の理解者である母を亡くし、誤って精神病院へと連れて行かれた聾盲のエルゼ。
彼女はそのショックから覚えたはずの触読や読唇、そして、言葉すら無くしています。
全盲で難聴である兄、聾で弱視の妹の老いた兄妹。
方言が強く老いた2人には読触をマスターすることが難しいのかもしれません。
生まれつきの聾盲である少年ハラルトと全盲だが聴力がわずかにある少年ミヒァエル。
彼らは物をイメージすることすらができません。読触を教えようにも「言葉」というものを理解しているのか・・・。それでも彼らを世話する先生たちの献身的なケアが胸を打ちます。プールのシーンは胸が締め付けられました。先生の想いがハラルトに伝わっていると信じたいですね。
ハラルトと同じ生来の聾盲者ウラジミール。
彼の場合はハラルトより悲惨でした。現在22歳の彼は医者に診てもらうこともなく、父にただ世話をしてもらっているだけでした。つまり、何も教えられず、何かを理解させる試みも与えられず・・・「放置」されていたのです。歩くこと、物を噛むことすらできない彼に私たちは何ができるのでしょうか・・・。
35歳で聾盲になった男性フライシュマン。
現在51歳の彼は母と老人ホームで暮らしています。今まで当たり前のように暮らしていた社会から追い出され、彼は読み書きすら忘れています。兄妹すらも見分けられなくなった彼は動物だけを愛し、人を拒絶していました。彼が大木と触れ戯れる姿が印象に残ります。自分は目や耳がない木と同じ仲間だと訴えているようでした。
観ていてつらくなってしまうのですが、同時に目を背けてはいけないという気持ちにもなりました。
フィニーは彼らを救うことができるのでしょうか・・・。
「闇と沈黙の国」とは、視力が失われ闇となり、聴力が失われ沈黙となった世界をあらわすだけでなく、心が闇で覆われ、心を閉ざして沈黙してしまう聾盲者の悲しい現実もあらわしているのかもしれません。
彼らの気持ちを理解できるフィニーの存在は健常者との架け橋なのかもしれませんね。
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Title:
LAND DES SCHWEIGENS UND DER DUNKELHEIT
Country:
West Germany (1971)
Cast:
(Herself)FINI STRAUBINGER
Director:
WERNER HERZOG
