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まだ見ぬ父に会うためにドイツへと旅立つ幼い姉弟の物語。
その年のヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞したテオ・アンゲロプロス監督の作品です。幻想と現実の間で迷走する幼い姉弟の姿が悲しく映ります。
夜の駅。幼い姉ヴーラと弟アレクサンドロスは、ドイツ行きの汽車に乗ることをためらっていました。異国の地であるドイツにはまだ見ぬ父が暮らしていたのです。
決して母が嫌いになったのではない。ただ、父に会いたい。2人は、度々、駅に来ては汽車を見送る日々を過ごしていました。
そんなある日。2人は、意を決して汽車に飛び乗ります。
父に会える。喜ぶ2人。はたして、2人が向かう先には何が待ち受けているのか・・・。
2人に立ちはだかる真実。そして、過酷な現実・・・。
そのすべてを物心が付き始めた年頃のヴーラが背負い込みます。叔父から明かされた真実を受け止めたくない気持ちが伝わります。
まだ学校にも行っていないであろう可愛らしい弟アレクサンドロスは、実に健気な男の子でした。駄々をこねることはほとんどなく、お金がない時は、自ら食堂で働くことを決意します。
でも、アレクサンドロスはヴーラの知る真実を知らないんですよねぇ。それでも、ひたむきに前を見据え、まだ見ぬ父の夢を見てはヴーラに父への想いを伝えます。
そんな2人にも素敵な出会いがありました。山道で歩き疲れた2人をバスに乗せる青年オレステス。彼は家族とともに舞台劇をしている役者でした。
2人の境遇を知り、オレステスは「君らは変わった子だよ。」としばらく2人と行動を共にします。
オレステスは、道でフィルムの切れ端を拾います。フィルムには霧の風景が・・・。「1本の木が見える。」とオレステスは言いますが、2人には見えません。
霧の中に何が見えるのか・・・。
ヴーラとアレクサンドロスには、きっと霧の中に想像上の父の姿が見えていたのではないのでしょうか。
しかし、その霧は濃く、2人をさらに迷走させます。
ヴーラに襲いかかる悲劇。
何も知らないアレクサンドロス。
酷い・・・悲しみしかそこにはありませんでした。
それでも、2人をドイツへと向かわせる衝動・・・。その終わりのない旅にも悲しみを感じずにはいられません。
1度別れたオレステスと再会を果たすもヴーラの心は・・・。オレステスもヴーラが以前に会った時と何かが違うと感じていたのでしょう。
しかし、何もせずそっとしておくだけのオレステス。ヴーラも異性だから何も言えなかったのでしょうね。まして想いを寄せる相手なら尚更だったのではないでしょうか。
さらに、オレステスの秘密を知ってしまうヴーラ。彼女を救ってくれる人は誰もいませんでした。ヴーラは、叫びたい悲しみを小さな身体の中にため込んでいるようでしたね。
そして、2人はついにドイツとの国境へ辿り着きますが・・・。
霧の中。
2人の目の前に1本の木が見えます。
そこは、本当にドイツだったのでしょうか・・・。
その風景はまさにフィルムに写っていた「霧の中の風景」でした。
2人にはその木が父の姿に見えたのでしょう。
2人は現実ではない世界で父に会えたのでしょうね。
Title:
TOPIO STIN OMICHLI
Country:
France/Greece/Italy (1988)
Cast:
(Alexandros)MICHALIS ZEKE
(Voula)TANIA PALAIOLOGOU
(Orestis)STRATOS TZORTZOGLOU
Director:
THEODOROS ANGELOPOULOS
Awards:
Berlin International Film Festival 1989
(Interfilm Award(Forum of New Cinema))THEODOROS ANGELOPOULOS
Venice Film Festival 1988
(OCIC Award)THEODOROS ANGELOPOULOS
(Silver Lion)THEODOROS ANGELOPOULOS
