Comment:
殺人事件を評議する12人の陪審員の姿を描く社会派法廷ドラマ。
シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」をロシア人のニキータ・ミハルコフ監督がリメイクした作品です。現代のロシアの社会情勢を浮き彫りにしたメッセージ性の強い作品に仕上げています。
チェチェンの少年が義父を殺害した容疑で逮捕。同じアパートに住む老人や隣の建物に住む女性らの証言、殺害時に使われたと思われる特注の戦闘用ナイフなどの証拠品により、誰もが有罪は確実であると疑っていませんでした。
12人の陪審員たちの評議が始まります。
裁判所が改装中のため、隣りの学校の体育館で評議することに・・・。
談笑しながら体育館でくつろぐ陪審員たち。
ほどなく、12人全員が中央に用意された席に座り、陪審員長を決め、早速、挙手での投票を始めます。
12人全員が一致しなければ上告できません。
陪審員長が有罪を主張する者に挙手を命じます。
有罪は・・・11人。
すぐに終わるかと思われた評議は、無罪を主張する1人の陪審員によって白熱した議論が始まりますが・・・。
大筋は、シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」とほぼ同じでしたが、「チェチェン紛争」の現状を交錯させることで被告人のチェチェンの少年にも焦点を当てています。
また、陪審員たちの現状もロシアの格差社会を浮き彫りにしています。
ユダヤ人やチェチェン人に偏見を持つ男。
不法な取引で大金を手に入れる墓地の管理責任者の男。
笑顔を絶やさない舞台役者の男。
苦労して外科医になったカフカス出身の男。
人に人生あり。
普段、語らないであろう自分の胸の内を名も知らない他の陪審員たちに告白していきます。この評議が終わったら、二度と会わないであろう人たちだからこそ言えたのかもしれませんね。
「終身刑なんだぞ。もっと真剣に話し合おう。」
初めに無罪を主張した男の意見は至極もっともな意見でした。
なぜ、他の11人の陪審員たちはそのように思わなかったのか。
例え、有罪に成り得る決定的な証拠があったにせよ、議論もせずに終わらせようとした背景には、ロシアの社会・経済情勢が抱える格差の問題が陪審員たちの心に余裕を与えていなかったのかもしれませんね。
初めに無罪を主張した男が後に日本とも取引がある会社社長であることを知りそのように感じてしまいました。
でも、人の意見に流されやすいテレビ局の社長の場合は、彼の性格に問題ありでしたけどね(^_^;
ラスト。
シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」と同様、次々と無罪を主張するようになる陪審員たちでしたが・・・。
ここからがこの作品の本当の意味での始まりなのかもしれません。
陪審員長の衝撃の告白。
最後の投票は「あなたなら、どうしますか?」と観ている者に訴えているようでした。
「私たちは有罪か無罪かを決めるために集められただけ。」
「その後のことはその人の人生であり、運命である。」
残酷かもしれませんが、そのようなことを主張した陪審員に私は賛成でした。
陪審員長の主張は究極の理想だと思いました。チェチェンの少年の境遇を体育館のパイプと同じように例えるのは筋違いなのではと・・・人と物は違いますからね。
体育館に閉じ込められた小鳥。
初めに無罪を主張した男が窓を開けると外は吹雪いていました。
留まるのも飛び立つのも小鳥次第・・・。
窓を開けるまでが陪審員の役割であり、飛び立つのはチェチェンの少年次第なのでしょう。
でも、飛び立った先にあるはずの巣がないのが現代のロシア・・・考えれば考えるほど難しいです。
Title:
12
Country:
Russia (2007)
Cast:
(Juror #1)SERGEI MAKOVETSKY
(Juror #2)NIKITA MIKHALKOV
(Juror #3)SERGEY GARMASH
(Juror #4)VALENTIN GAFT
(Juror #5)ALEKSEI PETRENKO
(Juror #6)YURIY STOYANOV
(Juror #7)SERGEI GAZAROV
(Juror #8)MIKHAIL YEFREMOV
(Juror #9)ALEKSEY GORBUNOV
(Juror #10)SERGEI ARTSYBASHEV
(Juror #11)VIKTOR VERZHBITSKIY
(Juror #12)ROMAN MADYANOV
(Crier)ALEKSANDR ADABASHYAN
(Umar)APTI MAGAMAEV
Director:
NIKITA MIKHALKOV
