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惑星ソラリスで起きる奇怪な現象を調査する男の心理を描いたSF大作。
その年のカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞したアンドレイ・タルコフスキー監督のSF映画です。
2部構成になっているこの作品。
まず、第1部ではクリス博士が惑星ソラリスへ旅立つまでをメインとしたストーリーになっています。
惑星ソラリスへ旅立つ前にクリスは父の家に立ち寄ります。クリスの任務は、ソラリス・ステーションで起きている奇怪な現象を調査することでした。ステーションでは大勢の研究員が次々と自殺・・・。
現在、生存を確認しているのは、
生物学者サルトリウス。
電子工学のスナウト。
物理学者のギバリャンの3名のみでした。
クリスの父の友人バートンは、クリスと会い、昔、自分が惑星ソラリスで体験した奇怪な出来事を伝え警告するのですが・・・。
ここまでは、まったく「SFの世界」を感じることはできませんね。自然に囲まれたクリスの父の家。川のせせらぎと流れに委ねて揺れる水草。藻が見えるほどの透明な水が溜まる穏やかな池。一頭の馬。戯れる子供。幻想的な世界が広がります。
SFらしいシーンはといえば、バートンの昔の映像をビデオで再生するシーン(ぜんぜんSFらしくありませんけどね)や、バートンがテレビ電話で語るシーンくらいでしょうか。
バートンが車を走らせるシーンは、日本の高速道路で撮影したのでしょうか。日本語の標識やビルの看板がところどころで映ります。
そして、いきなりソラリス・ステーションに舞台を移します。
宇宙へ旅立つのに宇宙のシーンがまったくないとは・・・この作品は、視覚的なSF要素を極力排除している「精神によるSF世界」を描いています。
前半から既に多用されている心理的、哲学的ともいえるセリフが後半になるとさらに深い領域へと踏み込んでいきます。
ソラリス・ステーションに到着したクリスは、スナウト博士に出会いますが、クリスの友人であったギャバリン博士は既に自殺してしまったことを知らされます。
原因を話したがらないスナウト博士。意思疎通もできないまま、明朝、また会いに来いと言い残しスナウト博士は立ち去ってしまいます。
ギャバリンの遺体を確認するクリスでしたが、ステーションにいるはずのない見知らぬ女性を目にします。
一方、サルトリウス博士は実験室にこもり切りで会おうとすらしません。ようやく出てきたサルトリウスでしたが実験室から不可解な人間?物体?が・・・。
まったく何が起きているのか判らないクリス。しかし、クリスの目の前にも信じられない光景が・・・。
10年前に自殺した最愛の妻ハリーが目の前に現れたのです。
ハリーの死に自責の念を抱いていたクリスは、そのままハリーと愛を確かめ合いながら共に生活するようになるのですが・・・。
なぜ、ハリーが現れたのか。その原因はクリスたちはもちろん知っているはずです。しかし、原因を解決するとハリーには会えなくなる・・・。この心の葛藤がこの作品のテーマであるようでした。
第2部。
第1部では無気力なクリスでしたが、ハリーと出会ってからは、まるで別人であるかのように人間らしさを取り戻していきましたね。しかし、それは幻覚であることも判っているクリスには心の葛藤が常に付きまといます。
強制的に別れても、翌朝、目が覚めると、また別のハリーが・・・。
さらに、そのハリーもクリスと暮らすうちに人間としての感情が芽生え始めます。そして、自分は何者なのかと問い始めます。ハリーなのか?ハリーではないのか?
クリスのために自殺したハリーの復活シーンはビジュアル的に怖かったですね。ハリー役のナターリヤ・ボンダルチュクの演技に注目です。
ハリーとソラリスの海は必ずしも直結しているわけではなさそうでしたね。ソラリスの海は、人間の深層心理の中に潜む「想い人」を具現化し、人間同士の感情を理解しようとしていたのでしょうか・・・。
ソラリスの海と人間はお互いを研究していたのかもしれませんね。
ラスト。
すべてが解決したかにみえたクリスでしたが・・・ラストのラストで衝撃的なシーンが待っています。
終始、徹底した哲学的なセリフの言い回しと「間」以上の「沈黙」とも呼べるシーンの連続が精神世界を彷彿とし、衝撃的なラストシーンへの伏線となっています。
もしかしたら、第1部からクリスはソラリスの海の幻覚に惑わされていたのかもしれませんね。
Title:
SOLYARIS
Country:
SOVIET UNION (1972)
Cast:
(Hari)NATALYA BONDARCHUK
(Kris Kelvin)DONATAS BANIONIS
(Dr. Snaut)JÜRI JÄRVET
(Henri Berton)VLADISLAV DVORZHETSKY
(Kelvin's Father)NIKOLAI GRINKO
(Dr. Sartorius)ANATOLI SOLONITSYN
(Dr. Gibarian)SOS SARGSYAN
(Kelvin's Mother)OLGA BARNET
(Aunt Anna)TAMARA OGORODNIKOVA
Director:
ANDREI TARKOVSKY
Awards:
Cannes Film Festival 1972
(FIPRESCI Prize)ANDREI TARKOVSKY
(Grand Prize of the Jury)ANDREI TARKOVSKY
