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作家志望の男が、自分探しの旅に出るロード・ムービー。
ヴィム・ヴェンダース監督の「ロード・ムービー三部作」の二作目です。
ドイツ北部の町。悶々とした日々を過ごす男ヴィルヘルムは、母親から旅に出ることを勧められます。作家志望であるヴィルヘルムは人間嫌い。母親はヴィルヘルムを追い詰めることで、作家に必要な不安感と憂鬱を与えようとします。
ヴィルヘルムは恋人ジャニーヌと別れ、自分を見つめ直す旅に出ますが・・・。
不思議な作品でした。主人公であるヴィルヘルムがストーリーテラーとなっているのですが、自らを一切語ろうとはしません。語るのは彼が出会う周りの人たち。
始めに乗る列車に同乗した鼻血が止まらないハーモニカ吹きの男ラエルテス。
ラエステスと同行する、何も語らない曲芸師の少女ミニョン。
ハンブルグ駅で出会う女優テレーゼ。
ボンのホテルで隣の席に座った、詩を嗜む男ベルンハルト。
そして、間違って訪れた屋敷で自殺未遂していた実業家の男。
彼らがヴィルヘルムに自らの想いをぶつけます。
ラエルテスは自らの過去を焦らしながら語ります。
ミニョンはヴィルヘルムへの恋心を態度で示します。
テレーゼはヴィルヘルムとの愛情のすれ違いにより激情に駆られます。
ベルンハルトは詩を創作する者同士、理解を深めようとします。
実業家の男は孤独について論じます。
彼らがヴィルヘルムに伝えた想いや感情は、ヴィルヘルムがこの旅で得ようとしていた答えだったのかもしれませんね。まるで、5人がヴィルヘルムの苦悩を映す鏡であるかのようでした。
ラエルテスからは過去の自分との決別を。
ミニョンからは人を知り、慕う心を。
テレーゼからは出会い、愛、そして別れ・・・揺れ動く感情を。
ベルンハルトからは作家としてあるべき姿を。
実業家の男からは孤独に耐える信念を。
彼ら5人は、これから作家となるヴィルヘルムに足りない作家としての決意や観察眼、忍耐などを教えていたようでした。ヴィルヘルムの旅に自然と連れ添い増えていった彼ら5人は、ヴィルヘルムの苦悩そのもの・・・ヴィルヘルムは1人で旅をしていたのと同じだったのかもしれませんね。
ヴィルヘルム役には、「都会のアリス」に引き続きリュディガー・フォグラー。苦悩する男がよく似合います。ロード・ムービーの主人公というのは能動的な人ではなく、受動的な人が主人公になることが多いなぁと思うのですが、そういう面では、彼は打って付けのキャラクターですね。
あと、ミニョン役にはナスターシャ・キンスキー。デビュー作だそうです。セリフのないミステリアスな少女を演じています。
ラスト。
最終目的地は、ドイツ南部のバイエルン州とオーストリア北部のチロル州との国境にあるツークシュピッツェ峰でした。ここでヴィルヘルムが出した答えは決して無駄ではないはずです。
今回の旅に彼ら5人は必要不可欠。
人生、まわり道があって当然。近道を知っている人、真っ直ぐな道を歩いている人などいるわけないのだから・・・。まわり道があるからこそ、さまざまな経験を得て、人に深みが増していくのではないでしょうか。
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Title:
FALSCHE BEWEGUNG
Country:
West Germany (1975)
Cast:
(Wilhelm)RÜDIGER VOGLER
(Laertes)HANS CHRISTIAN BLECH
(Therese Farner)HANNA SCHYGULLA
(Mignon)NASTASSJA KINSKI
(Bernhard Landau)PETER KERN
(Industrieller/The Industrialist)IVAN DESNY
(Mutter/The Mother)MARIANNE HOPPE
(Janine)LISA KREUZER
Director:
WIM WENDERS
