福島透視小説*****10…海水停止話への序章 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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一時下がっていた1号機の水量が戻ったように見えたことや、3、4号機がクライシス寸前になったこともあり、しばらく目を離していた1号機の水量がおかしいことに気づいた。

とにかく1機だけ見るのにも苦労するのに、一度に4機の監視だけでなく、必要機材、作業員らの労務管理・………。
想像を絶する、大変な作業なのである。
その上、頭でっかちの本社からの現場無視の調査指示。

かつ、作業員らへのねぎらいの言葉はおろか、威張りくさっている形の上での本部長どの。

泣きたいが、ここで泣いたら日本がなくなる。
ここ3日間は、ほとんど寝ていない。
飯は、いつ食べたのが最後か吉岡は覚えていない。
ビスケット1枚と、サバ缶を口に入れたのは覚えているが。


そんななか、官邸の太宰はハイネケンをカートン単位で宿舎に運ばせていた。


所長!1号機の水量がおかしいです。
悲鳴に近い声が上がる。

可能性は考えていたが、4号機の対応に気を取られて、放置してしまっていた。

吉岡はすぐに海水注入準備を命じ、海枝にもそれを伝えた。


海枝は、単なる報告程度の気持ちで対策室の太宰を尋ねた。

が、これがとんでもないことになる。

非常事態における現場作業は、この場合東電が責任を持つことになっていて、官邸は口を挟めない。

しかしながら、自称応用物理のプロである。

何か言わなくては、とでも思ったのだろう。

海水の塩化ナトリウムによる再臨界はないのか?と聞いてきた。

海枝は文系であったこともあり、再臨界などは聞いたことがなかった。

いや、東電フェローの竹城も否定した。

自分が否定された気分に陥った太宰に、恐れていた変化が現れた。