一時下がっていた1号機の水量が戻ったように見えたことや、3、4号機がクライシス寸前になったこともあり、しばらく目を離していた1号機の水量がおかしいことに気づいた。
とにかく1機だけ見るのにも苦労するのに、一度に4機の監視だけでなく、必要機材、作業員らの労務管理・………。
想像を絶する、大変な作業なのである。
その上、頭でっかちの本社からの現場無視の調査指示。
かつ、作業員らへのねぎらいの言葉はおろか、威張りくさっている形の上での本部長どの。
泣きたいが、ここで泣いたら日本がなくなる。
ここ3日間は、ほとんど寝ていない。
飯は、いつ食べたのが最後か吉岡は覚えていない。
ビスケット1枚と、サバ缶を口に入れたのは覚えているが。
そんななか、官邸の太宰はハイネケンをカートン単位で宿舎に運ばせていた。
所長!1号機の水量がおかしいです。
悲鳴に近い声が上がる。
可能性は考えていたが、4号機の対応に気を取られて、放置してしまっていた。
吉岡はすぐに海水注入準備を命じ、海枝にもそれを伝えた。
海枝は、単なる報告程度の気持ちで対策室の太宰を尋ねた。
が、これがとんでもないことになる。
非常事態における現場作業は、この場合東電が責任を持つことになっていて、官邸は口を挟めない。
しかしながら、自称応用物理のプロである。
何か言わなくては、とでも思ったのだろう。
海水の塩化ナトリウムによる再臨界はないのか?と聞いてきた。
海枝は文系であったこともあり、再臨界などは聞いたことがなかった。
いや、東電フェローの竹城も否定した。
自分が否定された気分に陥った太宰に、恐れていた変化が現れた。