彼は、ゴリョの流れを組む男だった。
ゴリョ王族は、全員首だけ出した桶に入れられ海に流されたはずだった。
が、たまたま水が入って来ない桶があり、その桶は半島の南西にある海岸に打ち上げられた。
男はマレビトとして、試し腹専用要員になり、なんとか生計を立てていた。
この試し腹の子孫が、かの王によって殺されてしまう皇太子である。
かの王は、小西や加藤が近づいてきたら、さっさと城を抜け出し、庶民には民を捨てた王として悪名が高かった。
その長男は乱暴者で、あまりに民の命を軽んずるため、皇太子には立てられなかった。
皇太子は、例の南西馬韓の試し腹男の子孫だ。
村役人によって徴発された、殯候補のひとりであり、その殯候補が産んだ子である。
男は、利発で品格もあった。
が、決定的な問題がある。
裏では、コムゲさえ差別せずに付き合っているらしい。
王は証拠隠滅のため、すべてのコムゲ殺戮を命じたが、皇太子は従わぬばかりか、王を欺いて、コムゲが定住できる村を作ろうとした。
ここまで来ると、いくら皇太子でも庇いきれない。
桶に入れて、首をはねるしかなかった。
皇太子に差別なき世界を期待していたコムゲらは、悲しみ怒った。
だから、小西や加藤、伊予大三島に従う半島人は、弁韓だけでなく馬韓にも多数生まれるようになったのだった。
このコムゲの恨みは、代々伝えられて今に至る。
平等社会は、どうしてもやって来ない。
良い生活をするには、あれらの本貫でなくてはいけない。
が、これは生まれてからでは直しようがない。
せめて、良い大学に。
とは言っても、見えない足切りや下駄がある。
分かっていても、口には出せなかった。
ピーナッツリターンなど、表に出ない小さいことは昔はよくあった。
が、今回は言えるチャンスである。
海運も電子も自動車のリストラも、身内は全く傷が付かない。
結局切り捨ては、元コムゲなどあれらの本貫になれない一部庶民だ。
弾劾を叫んで、弾劾決定しても、彼らは癒されない。
また、同じことが繰り返されるだけだからだ。
しかし、いつもの鬱憤をはらせるのは今だけだ。
阿波おどりじゃないけど、踊る阿呆に見る阿呆である。
てもでもの南無陀。