ただし、隣町へ行くのにも許可が必要だった。
だから、その町の人たちは、ほとんどがわずか20キロのところにある海というものを知らない。

百貨店とかいう建物があったが、エスカレーターには金を払う。昼飯代より高い。
遊宜店などは、建物どころか、一般国民は敷地にさえ入れない。
が、友好使節団体とかは、世界が違う。
熱烈歓迎の旗のもと、赤信号も無視できる。
若い姉ちゃんに囲まれた夕飯もあるらしい。
汽車の乗降口まで、プラットホームに車を乗り入れる。
国で規制されている大晦日近くの舞踏会には、天女が舞う。
入るだけで、月給が飛ぶが。いや、だいたい入れない。無理に入ろうとすれば、建物入口で鉛を食う覚悟がいる。
幸運にも、その建物で掃除夫になれた男がいた。
上海蟹とかが出たらしい。
上海蟹は、高級品は香港と党幹部にわたり、屑ものや偽物を日本に高く売りつけるらしい。
まだ見たことはないが、そやつが殻だけ持ってきた。
硬くて、とてもうまい代物ではなく、ネズミには遠く及ばない。
林檎とかいう実も出たという。
やつは、その種も持ってきた。
だが、向日葵や南瓜の種のように上手く殻が取れない。
その実は、赤ちゃんの拳くらい大きいという。
世の中には、いろんなものがある。
新しいことを知り、世界が広くなった気がした。

.