【連載小説】『割烹着の天使』登場人物 その4;ディメンジョン8 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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その4  ディメンジョン8




医学・薬学の裏世界で、彼の名前を知らない学者はいないだろう。


日本で最も販売実績のあった降圧剤デモシリオのデータ不正を暴いたことは、その世界では伝説となっている。


今年流行した言葉で言うなら、ディメンジョン8は多くの研究者にとってはレジェンドであり、同時に一部の研究者にとっては悪魔の存在でもあった。


ディメンジョン8の正体はわからない。

一部では引退した東大医学部の教授だとも、就職待ちのドクター、あるいはポスドクだとの噂もある。


が、いまだに男か女かさえわかっていない。


ディメンジョン8の、地方医大における免疫に関する論文の不正を暴く記事が終わった翌週のことだった。



今までのディメンジョン8なら土曜か日曜に記事をアップし、月曜から金曜までのウィークデイは投稿がない。


が、今回は違っていた。


2月6日木曜日、7日金曜日と、息をのむ記事が掲載された。


大いなる疑惑という内容で掲載されたのは、その1週間ほど前、世紀の大発見として和光生化研が発表した『テロメアのリコンビネーションと細胞寿命リセット』なる研究発表に対してだった。


この論文は世界的な学会雑誌『ナチュレ』にも掲載され、独誌ゲンチャナヨ、伊誌マニアーナ、アセアン誌マイペンライ、中国誌プークーイーでも触れられ、世界的な反響を呼んでいたものだ。


その内容は神の領域に等しく、生命科学の常識を覆し、人の老化を止めることにまばゆいばかりの光を与えるものだった。




が、ディメンジョン8はその論文や証拠写真に、決定的な疑問を投げかけたのである。