その3 積田 教授
馬韓田大学の積田のビブロフィルムは、天京女子医大時代の先輩である天野が社長となり、馬韓田大並びに天京女子医大傘下にある病院・大学研究室には購入を半ば強要させている。そのため売り上げはそこそこあるが、売り文句に使った再生フィルムとしては、副作用がほとんど見られない自己吸収型のフィルムが他社から発売されて以降まったく伸びていない。いや、伸びていないどころか、右肩下が
り傾向が続いている。株価は最高値の半分以下に落ちてしまっていた。
前期は、なんとか配当0を了解してもらった。
が、今期もまた無配にはできない。
「積田君。頼むよ」
天野からは、高圧的な電話が入ってきている。
「人の褌で相撲を取っていながら、偉そうに・・・・・・」
積田は高脂血症・高血圧のうえ運動不足が響いて、最近は少し動くだけで動悸がする。
彼は、額の汗をティッシュペーパーでふき取った。
「あの酒々井坊やにも、なんか注文が入っているのだろうな。いや、人のことより、まずは自分だぜ。さて、忙しくなるぞ」
積田は、かつての教え子である緒方奈美の研究論文を読み返した。
いや、実は初めてまじまじと博士論文を見たのだった。
「そうだ。俺が主査だったんだよな」
積田は、薄寒い笑みを浮かべた。