「このままでは大損だな。少し早めてもらうか」
田園調布にある800坪の閑静な住宅。
老人は携帯電話を手に取った。
「先生のご希望でございますのでできる限りのことはいたしますが、それはいささか無理かと。ご存知のように、ナチュレ社はグリニッジタイム1日午前8時までは発表を認めていませんので・・・・・・」
「・・・・・・はっ。はい。申し訳ございませんでした。・・・・・・。はい。手配いたします」
スマホを閉じた中年男性の額には、じっとりと脂汗がにじんでいる。
「まったく、いい気なもんだぜ。いくらナチュレに顔が利く僕だって、無理強いできないことはある」
配役は揃えた。
舞台も整えてある。
しかし、あの結果発表は日本時間で2月1日15時。つまり、午後3時とするが最速だ。
それを3日も前に繰り上げろという。
男は、研究室の壁を蹴りたい衝動をこらえている。