いくらなんでも、数時間も舟内にすし詰めじゃあかわいそうだ。
代替えの舟が来るまで、陸に上げさせてやればよかったのに。
いやあ、そうもいかんのです。
なんせ、仁王島。
サッパがうるさいんで。
そうか。それじゃあしょうがないな。
とは言ったものの、私にはサッパとは何かわからなかった。
が、年下に訊くのも恥ずかしい。
家に戻った私は、同じ長屋の伸介に訊いてみた。
伸介とは、寺子屋時代からの仲間。
今は永田町で人のいい魚河岸の頭をやっているが、昔は暴れん坊で有名だった。
そんな過去を知り合っている間柄だから、何でも話せる。
おい、伸介。
ちいと教えてけれ。
サッパってなんのことだ。
なんだ、定吉。そんなことも知らねえのけ。
サッパはママカリださね。
外海には出られねえくせに、近場でウヨウヨ我が物顔にしてるザコだっちゃ。
なんだかよくわからない。
おそらく、海外には出ていかないくせに、国内では俺様顔をしている連中のことなのだろう。
ママカリとかも言ってたな。マザコンなのか。
伸介は、インストラクターをインスタントトラクターと言うぐらいだから、ママカリとマザコンの言い間違えくらいもするだろう。
待てよ。
ウヨウヨいるとか言ってたから、ひょっとするとネトウヨとかいうやつかもしれない。
少し、首をひねっていたら、伸介がこう言った。
夕方にでも届けさせるよ。
????????
なんと、仁王島からサッパを届けるのか?????
いっそう分からなくなった。
サッパってなんだあ???