
私は緑茶派
先週の時差ボケがなんとか解消した。
が、いつまた逆転するやも知れず、昨日は初夏の陽気の中あちこちを回ってみた。
特にお腹が空いたわけではなかったが、今しがたもみしごいた路肩に生えていた、カレープラントに似た匂いが漂ってきた。
いや、そちらが本物の香りだが。
ネパール料理屋だった。
ほう。入ってみるか。
私は財布に相談してからドアを開けた。
店は10人も入れば、ほぼ満員のスペースだ。
私が案内されたのは、というか、そこしかもう空いていなかったが、2人用の小さなテーブル席だった。
今日のランチメニューを頼む。
辛さを聞いてきたから、一番の激辛を頼む。
ママさんが、ちょっとばかり私の顔を覗きこむ。多分心配してくれたのだろう。
左隣の大学生とおぼしきカップルは、私よりほんの少し前に席についたようで、3辛くらいをオーダーしていたらしく、それでも辛いと女性が囁いていた。
右隣には私と同年代の人たちが、辛さはわからないが汗と格闘をしていた。
ご飯ではなくナンにする。飲み物は当然、ラッシーだ。
しばらくすると、特大ナンとともに赤橙のキーマカレーが運ばれてきた。
ナンをカレーに少しつける。
ビリッときたが、三口目を過ぎたあたりから甘さを感じられるようになる。
このあたりが、ネパールカレーの辛さと東南アジアの極小鷹の爪料理の違いだろう。
あの鷹の爪は、一噛みで半日は痺れてしまう。私は1日お腹の具合がおかしかったくらいだが、ボンボンの友人は2日寝込んだ。韓国の塩辛みたいのも凄かった。これは私でさえ1日やられた。友人は病院騒ぎになりそうになった。あれは、辛さ故ではなかった気もするが。
さて、水をほとんど飲むことなく淡々とナンとカレーを処理していく。
三十路を過ぎたあたりのママさんが、時々心配そうに私を覗きこむ。
やがて、店には私だけになった。
料理人の2人のネパール人が、風となった私の前で世間話をはじめている。
ママさんはお客の帰ったテーブルを掃除し始めた。
時々、カウンターに行ってなにやら覗きこんでいる。
私の目の前だ。
ついつい、目がその半身に構えた後ろ姿、腰あたりを視線が上下してしまった。
ああ、エロジジイの視線そのものだな、と自覚する。
が、その視線の要求を拒否する力は、私にはなかった。
お会計。
ママさんの顔が近づき、サービスカードを作りましょうかという。
いや、めったにこのあたりは来ないのでと言ったものの、その青紫の視線を思い出すと少し悔やまれた。
で、なんと私はこんなことを言った。
いやあ、素晴らしいスタイルですね。やはり、こうした食べ物のせいでしょうかねえ。
初めての店で言うかいな。
と、もう一人の自分が嘲笑している。
あら、そんなことありませんわ。
みたいな言葉を背中に店を後にした。
うーむ。
そのうちもう一度行ってみるか。
うむ。カレーを食べにだぞ。
いや、自分にも嘘をつくのは疲れる。
へい。あのママさんを見にである。
しっかし、我ながら口が軽くなった。
かつてはたいへんな女性アレルギーで、1ミリ以内に近づいた経験のない私とは思えない。
………………………………
かつての私のイメージ。
あ、あのう。
えっ?なに?
その、そのですね。す、す、すき、すきや……
えっ?よく聞こえない。
すきやきって美味しいですね。
えっ???
(なんなの?この人!)
ヤブヘビイチゴ(普通のヘビイチゴよりふたまわり大きい)
