「……。そんな!私は嘘なんかつきません」
耳が遠いのだろうか。
初老の女の甲高い声が響いた。
その短い言葉の中のアクセントから、関東でも関西でもない独特の何かを感じた。
「違うんです。その機種がなかったから、また頼むんです。
……ええ、そうなんです。また戸籍謄本が必要なんです。
だって、今本人のふりして転売とかあるの。おじいさまは知らないかも知れないけど」
ずいぶん慣れている。
声がまた元のトーンに戻った。
「そうなの。ええ、じゃあ明後日ね。
ぼた餅のお土産、また持ってくわ。
そうそう、実印と権利書も忘れないでね。
そうそう、おじいさまの居場所がすぐに分かる機械なの。
でもほら、個人情報とか今うるさいのね。
……。さすがー。おじいさま何でも知ってるのね。
そうそう、だから、本人の同意がある証明に、実印と権利書が必要なのも、もちろん分かってるわよね。
外資系大会社の主任さんだったんでしょ。すっごーい。
……。やだあ。
……。うん。じゃあ、明後日のお昼過ぎね」