
むしゃくしゃしていた。
気づくと僕は、山あいの終着駅の温泉街を歩いていた。
「これ、そこの学生。ちと来られよ」
声の主を見た。痩せこけた頬から、5寸くらいの髭が生えている。 机の上には何やら文字を書いた行灯が置かれている。
「いや、金ないし」
僕は、伏し目がちに言った。
「金はいらぬ。そちの顔相に凶なる影が見えたゆえ呼び止めたまで」
全く興味が無かったが、行くあてもないし、時間潰しにはいいかも知れない。 僕は、軽く息を吐いて机のようなものに近づいた。
老人は割りばしのようなものを振ってから、羅針盤を取り出した。
「うむ。よいかな。この先にY字路がある。右に進むは凶、鬼門じゃ。左に進まれよ」
えっ?と思った。
「羅針盤で鬼門が分かるのですか?」
「ふむ。北天のやや右じゃ」
「えっ?じゃあ、北東ってこと?」
「うむ。そうとも言う。正しくは、丑寅じゃ」
「その羅針盤で、北東、ええと丑寅って分かるの?」
「学生、何を学んできた。羅針盤の向く方向が北天。そなたにとっては、本日は吉の道。されど、それより少し東は大凶」
「あのう。北天って、真北のこと?」
「さよう」
「じゃあ、真北に行けばいいのね?」
「そうじゃ。だから次のY字路を左じゃ」
僕は、歩き出した。
真北が大吉ね。
だったら右側の道だ。
僕は、髭じいさんが大凶と言っていた道を行く。
★
羅針盤の向く方向は真北ではない。北の方だ。
日本付近だと、本当の北より西、つまり左側にズレてしまう。
だから、本当に北に行くには、羅針盤で北を指す方向より少し東側、つまり右側に進めばよい。
最近の方角占いは、こうした羅針盤と実際の方角のズレを考慮するものができてきてはいる。
が、羅針盤の北を指す位置は、毎秒数メートル、1日で100キロメートル近くズレることもある。
数百年前だと何千キロメートルもズレて、北を指す方角はずいぶんと違っている。
それなのに羅針盤とか方角とかで占うのは、なんとも悲しい。
方角占いとは、実は手相、顔相と同じように環境、経験からくる推定だ。
だから、占いではなく科学を利用している。
それをいかにもらしく語る芸である。
そうした経験からくる考察を無視して、単にマニュアル本通りに占うのは、素人だ。
つまり、顔相、手相、方角占いのプロは、実際にはマニュアル本に書いてあるようなことなどは信じてはいない。
あくまでも、経験である。知識と勘である。
ただ、最近はコンピュータを利用して、かなり正確な性格占いを行えるようになった。
これにもちゃんと、たくさんのトリックがある。
が、あまり書くと叱られそうだから、このへんにしておこう。
コンピュータ性格占いが、非常に正確に思えることは当たり前のことである、とだけ言っておこう。
★次男が夜中にぶつぶつしゃべっていると思ったら、スマホと会話している。
スマホもずいぶんと進化したものだ。
ヘブライ語やら中国語などの挨拶は、何とか理解してくれた。
ほほう、私の発音もまんざらではないぞと思ったら、とんでもない。
英語のマクドナルドやケンタッキーフライドチキンは理解してくれたが、カレーライスはなかなか分かってもらえない。
意地悪く関係代名詞ぞろぞろの文をしゃべったら、単語はしっかり並んでいたが、和訳がかなり変だった。
しっかし、がっかり。
バスク語は全く受け付けてもらえず。
トルコ語はg'の発音がさっぱりダメ。
でも、外国語の単語、挨拶程度の発音学習にはなかなかいい。
すごい時代になった。
英語ベースだと、会話による命令で、勝手に画面が動き説明までしてくれる。
汎用機器でこのレベルだと、軍事・宇宙・情報レベルはとんでもないことになっているだろう。
すでに、網膜投影や、思考作動機器ができている気がする。