
私はない派
今日の午後はお白州に呼び出された。
「コラーッ、ジジイ。おめえさんの悪業は、この鯉桜吹雪がすべてお見通しだぁ!とっとと、悪業の数々吐きやがれー!」
と言われた。
「おでぇかんさま。お言葉ではござんすが、すべてお見通しなら、わざわざ俺っちが言わなくてもいいんでないべか?」
という言葉が喉元まで出たが、年貢米の追加とか言われるのが嫌だから、
「へへーっ。さすがお奉行、おでぇかんさま、タバコ、缶コーヒーさま。あっしが悪うござんした」
と、お白州に額をつけた。

「江戸城で、うまそうなたらっ芽(ぺ)めっけたけど、うまそうだと思っただけでけっして採ったりしちゃあおりやせん。タバコ1本に誓って相違ごぜえやせん。すかす、うめえべなと思ったのは、あっしの罪でごぜえやした。申し訳ごぜえやせん。」
「そればかりではなかろう。まだあるのを知っておる」
「だから、知ってんなら言わなくたってよがっぺよ」
と、また口から出そうな言葉を飲み込んだ。
「へへーっ。畏れ入谷の鬼子母神。花粉で鼻をかんだよ神田様。へぇ。石垣に陽なたぼっこしているトカゲがおりやしたんで、ちいとおどかしてやろうと、舶来の霊写からくりをヤツめに向けやした。いや、尻尾をいじって切ったりしちゃおりやせん。だいたい生まれたばっかのトカゲやろうは、まだ尻尾切り術ができやせん。すかす、やっぱりおどかして陽なたぼっこの邪魔したのは事実でごぜえやす。この上は、タバコ1時間抜きの刑なり、シケモク我慢の刑なり、厳しいご沙汰も覚悟いたしやす。何卒ご寛大なるおさばきを」
お白州近くには、幕末の健脚、いや剣客ゆかりの寺があるのを知っていたから、ここでも罪状を包み隠しなくご報告し、今帰途についている。
