【随筆風小説】-50度の村から | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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オイミヤコンのアスペルギウス・ニガーからメールが入った。

先ほど、とうとう-50度を割ったという。
メールを見ただけで寒くなった。
昔は暑さ寒さを感じなかった私だが、わずか0度で手がかじかむようになってしまった。
さらに、まだ23時を回ったばかり。宵の口だというのにふらついている。





本来なら宿題をやり終えるまで徹夜でもすべきなのだろうが、体力が追いつかない。


パソコンの文字も霞んできたから、早引けである。



さて、ここからは友人のアスペルギウス・ニガーから聞いた話だ。

名前通りのヤツだから、おそらく名前に恥じない話に違いない。


なんでもオイミヤコンの冬の必須アイテムは、ハサミだという。

例えば外に出て“自然が彼を呼んだ”ときには、その出口からパリンパリンと凍っていくそうな。だから、そのつららみたいものをハサミでチョキンチョキンしながら、自然の呼び声に応えるそうだ。





さらに注意すべきは泣くことだという。

涙を流したとたんに暗闇の世界が待っている。

だから、その地の赤ちゃんもめったに泣かないらしい。

これに関係するが、二重瞼は嫌われるそうな。

水や汗が溜まり易いからだ。

オイミヤコンは夏は北海道並みに暑くなり、冬は人が定住する地域では最も寒くなる。

夏と冬の寒暖の差、つまり最高気温と最低気温の差は平均でも60度以上。

短時間の温度差ならば100度を超える。

まさに忍耐力が必要とされるところだ。

かつて私が経験した1日内での気温差は60度くらいだ(赤道直下の国から、アルプス麓の村へ)。
それでも私はしばらくは膝が曲がらず、まるで旧式のロボットのような歩きとなった。

南国一分厚いズボンをはいていたにもかかわらずである。



さて、オイミヤコンの話に戻ろう。


友人のアスペルギウス・ニガーの親類のアスペルギウス・オリザエは、暖かそうな黒いコートを纏っており、毛むくじゃらのその風貌は一見不気味にも感じられるだろう。


が、彼女は私のみならず日本人の心を暖めてくれることも多い。

その昔、祖母はよくござの上に彼女を座らせていた。


今は、もう七割がなりすましである。

アスペルギウス・オリザエも、最近は身近な仲間ではなくなりつつあるのだ。




あのふくよかな姿、天国の香りを知る若者は、ほとんどいないだろう。


日本の宝が消えようとしている。