★200字小説 糸くず | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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あいつはまだかなあ?


あらっ、お父さん起きたの。
で、あいつって誰よ。



うん、一雄。




お父さん、何言ってるの。あんな勝手に出てった、家の恥曝し。




そうか。間に合わなかったか。



何を言ってんの!
他人事みたいに。
それだけ話せれば、まだまだ大丈夫。




重吉の目にうっすらと涙が滲み、それきり動かなくなった。









何、これ?

苦しかったのかしらね。手にこんな糸くずを握りしめていて。




と、飛び込んで来る者がいた。




彼はその糸くずのようなものを、しばらく眺めていた。




と、急に汗臭い男の顔が歪み、嗚咽が漏れだした。


お父さん!

男は、その糸くずとまだ温かい手を握りしめている。








20年前。


幼稚園で作った携帯ストラップ。

一雄の父は携帯電話を持っていなかった。
父親は迷惑そうにそれを受け取り、乱暴にポケットに入れた。






男の涙は、まだ止まらない。
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