あらっ、お父さん起きたの。
で、あいつって誰よ。
うん、一雄。
お父さん、何言ってるの。あんな勝手に出てった、家の恥曝し。
そうか。間に合わなかったか。
何を言ってんの!
他人事みたいに。
それだけ話せれば、まだまだ大丈夫。
重吉の目にうっすらと涙が滲み、それきり動かなくなった。
何、これ?
苦しかったのかしらね。手にこんな糸くずを握りしめていて。
と、飛び込んで来る者がいた。
彼はその糸くずのようなものを、しばらく眺めていた。
と、急に汗臭い男の顔が歪み、嗚咽が漏れだした。
お父さん!
男は、その糸くずとまだ温かい手を握りしめている。
20年前。
幼稚園で作った携帯ストラップ。
一雄の父は携帯電話を持っていなかった。
父親は迷惑そうにそれを受け取り、乱暴にポケットに入れた。
男の涙は、まだ止まらない。
