さて、飯の用意でもしよう。
僕は昨日見つけた新しい鍋に、畦道で摘んできたアブラナの芽を目一杯いれる。

いいにおいだ。
菜種油のにおいが腹をくすぐった。
あれも食べられるかも知れないな。
僕は膨らんだネコヤナギの花を思い浮かべた。

今度入れてみよう。
鍋がグツグツいい始めた。
うっすらとうまそうな油が浮いてきている。
と、僕は背中に視線を感じた。
「食い欠けで悪いけど、食べるかい?」
僕と同い年か、少し年輩の男が声をかけてきた。
「ああ、すまないね」
と答えて、僕は自分自身に驚いた。
人と言葉を交わすのは久しぶりなのに、また、初めての相手なのに、僕は自然にそのパンを受け取っていた。
「飲みかけで悪いが、これもいる?」
まるで旧知のようなその口調に、僕はまた「ありがたいなあ」と、何年ぶりかの笑みまで漏らして、それを手にしていた。
不思議な1日だった。
その初老の男は、時に道端に腹這いになりながら、写真を撮っているようだった。

遠くでホトトギスの声がしている。
僕は、ゆっくりとパンを口に運んだ。
ひどく薬臭く粉っぽかったせいか、急に咳こんだ。
春霞。
遠くの景色がぼやけている。
