政は、また同じ言葉を繰り返した。
これも極めて珍しいことだ。皇帝は1度しか尋ねない。2度目に待っているのは自刀用の短剣である。
はあ。なかなかに荒い海を渡らねばならず、ずいぶんとてこずっておりまする。 さらに、大鰐が行くてを邪魔しておりまして、今の船ではいささか心もとない気がしております。
さようか。
なら、もそっと大きな船を作ればよかろう。
御意。
荒波を渡り、大鰐にも苦しめられぬためには、今の船の2倍、いや、3倍ほどの大きさが必要かと。
さらに行き来の難破も考えて、100艘ほどの船団にしつらえねばと。
さようか。
では、そうするがよかろう。
ははーっ。
この時ばかりは、小肥りチョビ髭も平身低頭し、政が去る迄床に額を押し付けたままであった。
が、よく見れば、その喉元がせわしなく震え、漏れてきそうな笑いを必死でこらえていたのに気付いたことだっただろう。
世界の覇者であり、口達者を嫌っていた政が、どうしてこの男にだけは自由な振る舞いを許していたのだろうか。
それは、こんなことがあったからだ。
つづく
