
いえ、違うのよ。
か細い声がした。
心地よい終電の揺れに、私は夢の続きだと思った。
違うっていうのに、どうして分からないの?
ねえ、分かって。お願い。
今度は、はっきりと聞こえた。何かが喉に詰まったような、すこし粘り気とハスキーを兼ね備えた声だ。
そうか、携帯電話で話しているのかと思い、少しくゆっくりとかしらを左に向けた。
? !
携帯電話で話しているのではなかった。
三十路近いと思われるその女は、一枚の写真に語りかけているのだった。
その写真は、モノクロの薄っぺらいものだった。エコーに特徴的な細い波線が見えた。
そうか。そういうことか。
私の心の中にも、急に木枯らしが入り込んできた。
これも年のなせるわざだろうか。