【小説】木枯らしの声 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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いえ、違うのよ。

か細い声がした。



心地よい終電の揺れに、私は夢の続きだと思った。

違うっていうのに、どうして分からないの?
ねえ、分かって。お願い。

今度は、はっきりと聞こえた。何かが喉に詰まったような、すこし粘り気とハスキーを兼ね備えた声だ。

そうか、携帯電話で話しているのかと思い、少しくゆっくりとかしらを左に向けた。


? !

携帯電話で話しているのではなかった。


三十路近いと思われるその女は、一枚の写真に語りかけているのだった。

その写真は、モノクロの薄っぺらいものだった。エコーに特徴的な細い波線が見えた。



そうか。そういうことか。


私の心の中にも、急に木枯らしが入り込んできた。



これも年のなせるわざだろうか。