
私はその他派
【第1話】
えっ?なんだって。もう一度言ってみて。
あちゃあ。あいづちをする代わりに、OKと言いながら親指と人差し指で輪を作り、笑みを浮かべてその女社長に返した!?
それも、3回も!
バッカだなあ。
それじゃあ、商談がご破算になって当たり前じゃないか。無理してオーダーしたロマネを、頭からぶっかけられなかっただけラッキーだったと思わなきゃ。
だって、その社長って○×人だろ。
お前、○×国でそのマークはどういう意味か知らなかったのかい?
【第2話】
ええ、そりゃもう、スープの下ごしらえより気を使いますよ。
外務省や大使館の知り合いに聞いて、家族構成、親戚、趣味まで調べます。
当然でしょう。
だってあんた。
松坂牛のステーキなんざ出した日にゃ、命を取られかねないお客様もいらっしゃっいますからね。
その点、日本人は楽ですわ。
値段の高いものだけ出せば、とにかく喜んでもらえますからね。
【第3話】
ええ、パンで皿を洗うように、ソースまできれいにしてもらうと嬉しいですね。
その点、日本人にはがっかりさせられます。
パンの皮は切り取って残したまま。
サラダも、特定の野菜を選り分けて残したりする。
皿のソースを食べてくれる客なんざ、滅多にいませんよ。
【第4話】
“とりあえず、ビール”
この言葉を聞いた時には、叩き出してやろうかと思いましたよ。
いくら相手が、日本の国会議員とかでもね。
ここは、メドックでっせ。
常識がないなあ、と思いました。
【第5話】
ああ、あいつは首にしました。
△国のお客様が来る日に、菊の花柄のあるネクタイなんざしてきましたからね。
しかも、白いやつでっせ。
【第6話】
ええ、今刑務所の中です。
まあ、仕方ないでしょうね。
いくら最高級のものを市場で買ってきたとはいえ、お祈りしていないポークを出してしまったんですから。
【第7話】
アザラシの肝臓も、1年凍らせておいたトドの胆嚢も、うまそうに食べてくれていた。
なのにどうしてだろうか。
客人は、妻を料理してくれなかったようだ。
自慢話になるかも知れないが、妻はトドのように太っていて、温かく美しい。
何が気に入らなかったのだろうか。
私には想像できない。
(これは尊敬する無名作家、momoさんの記事を参考にさせていただきました)
【第8話】
今夜は客人がくる。
精一杯の接待をしなくてはなるまい。
不安なのは、夜までにネズミを見つけられるかどうかだ。
去年の乾期以来、まだ3匹しか見ていない。
とりあえず十分なコオロギを集めてあるとはいえ、やはり珍味を味わって欲しいものだ。
また、そうしなければ私のメンツが立たない。
【第9話】
ダメですよ。
ドリアンとかツバメの巣みたいな、ありきたりのものじゃ。
相手は、日本から来るんですぞ。手落ちのないよう細心の注意と誠意を見せなくては。
隣の島まで行って、カップ麺を買ってきなさい。