津端の里に、ひがらよもすがら星の数など数へては、けふはよろしけれど明日のよねはいかがあるべしなどいふ翁ありけり。
かかるは念仏唱へたるに似て、念仏翁となむ呼ばれける。
念仏翁のよはひくぁんれきに近うあるも、その思ひ赤子にこそあらめ。花蝶などに声かけめづるはいとをかしくつきづきし。
山を越へたる隣村の佐上なるところに、栗元なる絵師あり。
不惑迎へる働き盛りなり。山の上をことのほかめづる男にあるべし。
如何せん。
絵師の翁に、翁の絵師に間違ひられたることふたつみつあり。
よはひならわしなどいとちごうたるありけるも、人の間違ひたることこそをかしけれ。
げに人の思ひは九九八十一なるべし。
かく思ふはかく思ふまなこしんちゃうに曇りこそあらめ、となむ語り伝へけるとや。
