
火星居住地化計画のファーストトライアルは、ほぼ成功に終わった。
フロッグ博士の案による、静止軌道内を回るフォボスの火星への墜落案は、薄い大気が一層宇宙へ逃げ出す危険性があることから、この方法による火星大気増産は否決され、従来のカッパー博士説、火星南極ドライアイス粉砕策を採用したのである。
35テラの中間子ビーム、87ナノセコンドを8000回火星南極表層に照射することにより、表層ドライアイスを匹散・昇華させ、予想の87%、つまり火星大気圧をおよそ15倍の100ヘクトパスカル近くまで上昇させることができた。
これは、火星居住地化計画の大きな一歩であり、我々はその歴史に名を残すことになるであろう。
炭酸水の生成がかなり増加したことは、やや予測外であった。
これが、大気圧を10%ほど低く抑えてしまった原因である。
地殻付近の氷が、スキャナーによる算定値よりわずかに高かったようだ。
しかし、我々がこの炭酸水を利用できるようになるのは、あと少し先のこと。 イエローストーンスルフォバクテリアを投入後、2000宇宙年以上経った頃だろう。
そこまで私が生きていられるか、いささか自信がない。
そうなれば、我々は光合成を行いつつ、スルフォバクテリアを栄養源に生活できるようになる。
蛇足だが、我々がかつて地球に存在していた、ヒトという動物の子孫であるという宗教がある。
彼らの神話によれば、遺伝子操作によりクロロフィルが含まれた細胞を、ヒトの皮膚に移植したのだという。
バカなことをおっしゃいますな。
我々の光輝く緑の皮膚は、ヒトのような低能な野生動物のものであるはずがない。
地球の緑を破壊し、今や絶滅危惧種となるような自虐的動物が、我々の祖先であるはずがないではないか。
宇宙歴3772年1月14日
火星居住化計画企画部主任
アクターガワン