今の若い方はいざ知らず。
ある程度の年の方なら、ほとんどが知っているであろう日本神話の一つに、ヤマタノオロチ伝説がある。
『古事記』や『日本書紀』などの記述をまとめると、下のようだ。
姉にあたる天照大御神から天界を追放された須佐之男命は、出雲付近で悲しみにくれている老夫婦を目にする。
話を聞くと、毎年ヤマタノオロチという、山ほどある蛇のような怪物が村を襲うという。さらに、暴れないようにするための生け贄として、処女を差し出さなければならないらしい。今年は、その老夫婦の娘が生け贄にならなければならないということだった。
須佐之男命は酒樽を用意させ、酔ったヤマタノオロチを倒す。こうして村に平和が訪れ、それ以後は生け贄も必要なくなったという話だ。
また、このヤマタノオロチを切った時に、体から須佐之男命の持つ剣よりも優れた剣が出てきた。
これをアマノムラクモノツルギと呼ぶ。これは後に、ヤマトタケルが焼津あたりで敵に火を付けられた時に周りの草を払って命拾いしたことから、草薙剣(クサナギノツルギ)と呼ばれることになる鉄剣(平氏滅亡の際に、瀬戸内海に沈んでしまったらしい)だ。
が、この話には実に奇妙なことがある。
日本神話の中ではかなり珍しい英雄話(日本神話には、ヤマトタケルの話以外に、あまり武勇伝はない)にも拘らず、『出雲風土記』には、この記述がない。
つまり、ヤマタノオロチ伝説は、出雲地方の話ではない可能性が高いのだ。
現代では、ヤマタノオロチ伝説は、治水と砂鉄発見による鉄剣の歴史を伝承するものだ、との説が主流だと感じる。
また、過去の生け贄の風習を伝えるものだとも。
世界的に見れば、この話はエジプト起源、ギリシャ神話で完成をみた、アンドロメダ伝説にたいへん似ている(エジプト神話は、メソポタミア神話の影響を受けている可能性がある)。
日本神話はギリシャ神話起源という人たちの、根拠の一部でもあるだろう。
また、ヤマタノオロチは、高志(こし)のヤマタノオロチと、高志という地名のような名前が付く場合がある。
この高志を、越、つまり北陸地方と考えるか、それ以外の地方、国と考えるかは、後に継体天皇と諡を付けられた大王の記述と絡ませると、非常に興味深い。
が、今回はここまで。