【寓話】医師との会話 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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新生物の可能性もあり、生検を行う必要があります。
生検とは、患部から直接サンプルを採取し、培養を行い、その同定を行うものです。
この検査、及びサンプル採取後の状況を把握、管理する為に、最低2週間の入院をしていただきます。
よろしいですね。




ちいと、待っておくんなまし。
言ってることが、さっぱりわかんねえでげす。
ちょっくら訊いてもよござんすか?





はい。
いいですよ。
分からないことがあったなら、なんでもお答えしますから。





へえ。ありあとござんす。
ほんじゃ、訊きますぜ。
入院しなくっちゃなんねえってのは分かりやしたが、その新生物とかっつうのは何ですかい。
あっしの体に、バテレンでも入り込んだっつうことで?






はははっ。
おっと、失礼。
いや、新生物というのはですね、良性ではない可能性の高い腫瘍、つまり通常細胞ではないものという意味ですよ。




はあ?
まだ、分かりやせんが。


ですからね。
世間で言うところの、癌ですな。




ひやっ!
岩でげすか。
腹ん中に石を作っちまったわけだ。




? ? ?
いや、胆石や尿路結石ではないですよ。

新生物発生の可能性が高いのは、あなたの頭です。




はあ?
だって岩て言ったでしょうが。




いやはや、あなたは癌という言葉を、聞いたことがないんですか?




へえ。
元禄時代には、そんな言葉はなかった気がするんでげすが。




そうか。
あなたは、お犬様時代の方でしたね。華岡青州もまだいない。
じゃあ、簡単に言いますよ。

あなたの頭の中に、普通ではない、悪い虫みたいのが入りこんだようなのです。





ひえっ。
そういや、庚申様ん時寝ちまったから、耳の穴から、やぶっ蚊にでも入られやしたかね。





いや、この虫は内側から生まれてくるから、そういうことはないでしょう。
でも、ラビットの耳にコールタールを塗り続けて癌を作った実験もありましたから、そうですね。
同じようなことを何度も耳から入れられたか、同じものを見てばかりいて、目が新生物の発生する要因にはなったかも知れませんな。




ふーん。
そんなもんでげすか。
ひょっとすると、大石内蔵助の討ち入りの講談を、聴きすぎたかも知れやせん。
もう、あっしの中じゃ、討ち入りが本当にあったことになってるんで。





それはいけませんね。
やはり、頭におかしなものができている影響かも知れません。





しかし、先生。
上野の方じゃ、あんときの賠償をせいとかわめいていやす。
そっちの方が、ひどくはありやせんか。




いや、とにかく入院ですな。
新生物というのはですね。
普通の細胞と違って、本体の栄養が無くなるまで成長します。
つまり、体を食い付くしていくわけですな。
シャーレ実験をするとよく分かる。それに末端の寿命記憶コードとも言えるテロメアも……。




すまねえ、先生。
やたらバテレン言葉が多くって、余計分かんなくなっちまいそうだ。
分かりやすした、分かりやした。
2刻我慢すりゃいいんでげしょ。







いいや。2週間だ。
最低でも。





あのう。2週間って、何時で?








はっ?


もういい。
帰っていいよ。
いいまんま食べて寝なさい。







へえ。ありあとござんす。
ほんじゃ、ごめんなすって。








おい、定吉さん。
それでも、頭の中の虫は、日に日に増えていきますからね。
よく、分かってくださいよ。






へぇ。
合点、承知で。

大丈夫でげす。
おっかあに、しっかり耳あか取ってもらいあすんで。









おわり。




本寓話はフィクションであり、登場する団体や個人は架空であり、仮に似た事実が周りにあったとしても、たぶん関係ねえことを言っておきやす。



ごめんなすって。