【小説】一週間のベートーヴェン その1 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

しま爺の平成夜話+野草生活日記

世間を少しばかり斜めから見てしまうしま爺さんの短編小説や随筆集などなど
★写真をクリックすると、解像度アップした画像になります。

前日の午後から、なんらかの違和感は感じていた。

外傷性のものとは明らかに違う嫌な感じの頭痛と、40代後半までその意味を理解できなかった耳鳴りとが、私を苛立たせていた。


かなり血圧が上がっているようだ。
私は左手首内側に、右親指を軽くあてながら、その拍動の強弱があまり感じられないほど最低血圧が上昇しているのを分かっていた。
今思えば、エウスタキオ管に、膨張感があるにはあったが。






あくる朝。

それは突然襲ってきた。
いや、多少は予想していたが、初めての経験に、私は初夜のような不安を感じたのだった。

いや、待て。
初夜のような不安という表現はおかしい。
私は男なのだから。

いやいや、さほど問題ないか?
男だって、多少の差はあれ、似たり寄ったりの心境やも知れないからだ。




起きた時には、すでにガンガンと耳鳴りがしており、私は耳鳴りに起こされたと言ってもよかった。立ち上がると、めまいにも襲われる。



うん?メニエール病か?

代表的な、突発性疾病が脳裏をよぎった。


いや、メニエール病にしてはおかしい。

めまい自体は軽いだけでなく、吐き気もしない。
かつ、ガンガンと耳鳴りがしているのは、左側だけだ。
右側も、多少高周波音が聞こえる気がするが、これは左側の耳鳴りの影響からであり、まず問題がないだろう。

外からの音が、アンバランスな響きで脳の中に入ってくる。
自分の声も、密閉された狭いアルミ部屋の中か、窒素の代わりにヘリウムを満たした空気の中で話しているように聞こえる。
つまり、自分自身の声というより、一度アンプを通して自分の耳に入ってくる音のように感じられるのだった。




会社に電話する。

耳鳴りのしない方の右側の耳を当てるが、左側の雑音が激しく、なかなか聞き取れない。




私はとにかく、午前は会社を休むことを伝え、身体を横にした。

その時は、過労からくる高血圧とめまいで、少し休めば治るだろうと思っていたからだ。


が、昼近くなっても、状況は一向に変わらない。
いや、むしろ悪化していた。



すぐに、近くにある個人経営のそれを、少し大きくした程度の総合病院に行った。


そこには耳鼻科はなかったが、私は問題はないと考え、内科に入る。




が、すぐに耳鼻科専門に行くよう指示をされた。


ところが、近くで知られている耳鼻科もある総合病院は、すでに受付時刻を過ぎている。



私がそれを伝えると、内科医は看護師に電話を入れさせた。


が、相手にされない。


内科医に代わる。


多少の口論があった。


○○のことを考えていないなら、○○なんて言う名前を外したら。


そんな嫌味さえ言ってくれていた気がする。



それでも、しばらく時間がかかった。



私はその内科医の紹介状を手に、総合病院の耳鼻科を訪ねることになったのである。






★つづく