囚人223690679の調書 :ある新人取調官の日記 3 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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その夜、習志野駐屯地を飛び立った8機のヘリコプターは、嵐の前の静けさ(と信じて疑わなかった微風)の中を、西へと進路をとった。

機内には、科学鑑識班、科学処理班、特殊突入班の、それぞれエキスパートが、頭から銀色の完全防御服を纏って分乗して乗り込んでいる。


しかし、不思議なことに、ものものしい出で立ちの隊員を乗せたヘリコプターが向かった先は、何と八ヶ岳山麓にある、ごく普通の民家だったのである。


さらに奇妙なことに、科学鑑識班の隊員たちの何人かは、小鳥籠を持っている。

隊員たちの出で立ちと、小鳥籠の組み合わせは、異常としか形容しがたい。


その民家には、大型トラックが数台置けるくらい広い庭があり、物置小屋も3棟ほど建っている。

が、田舎なら、ありきたりのただ住まいだった。




突入!

特殊部隊隊長らしい声が響く。






ところが、中から現れたのは、足の悪い不惑過ぎの男と、その両親らしい老夫婦だけだったのである。



それが、あの年の9月9日の朝のことだった。


実は、この屋敷がシグマオルトパラメタ教のアジトで、有毒物質を作っているとの情報から、急遽、かような大掛かりな家宅捜索となったのである。

なぜなら、その3日前には、山手線や京浜東北線など首都圏の主要鉄道で、原因不明の昏睡事件が発生していたからだ。

僕らはこれを、リポビタン事件と呼んでいる。

そこで使われた化学物質が、リポ・βなんとか……タンというものらしい。が、やたら長く分かりづらいから、リポビタンなわけだ。


しかし、これはとんでもないガセネタで、警視庁の大汚点となる捜索だった。







僕は、天気図を見比べながら、そんなことを思い出していた。








なあ、おかしかんべ。

男が、また粘っこい視線を絡ませてきた。