雨は上がりましたが、道のあちこちには水溜まりができておりました。
と、向こうから小股の切れ上がった、三十路に届きそうな女性(にょしょう)がやって来るのが見えました。
女性は、道いっぱいに広がった水溜まりを前に、立ち往生しています。
と、喜寿を超えたであろうお坊さんがじゃぶじゃぶと水溜まりの中に足を入れ、女性になにやら声をかけました。
と、なんと。
老僧は、女性を抱き抱えるようにして水溜まりを渡って行ったのです。
女性が、何度もお辞儀をしながら視界から消えて行きました。
と、老僧に付き添っていた若いお坊さんが、口を尖らせて老僧に言いました。
我らは仏に仕える身。
女性に触れるのは、御法度ではありませぬか?
と、老僧が答えます。
確かにワシは女性に触れたがな、色あるものに触れたのではない。困っているものを助けたにすぎぬ。
が、そちはどうじゃ。
目で女性を犯しておったろうが。
若いお坊さんの顔が赤らんで見えたのは、夕焼けのせいだけではなかったでしょう。