今や、日々、銀行からの引き落としが出来ませんでしたコールに怯える、あるひね爺さんの、お金に関わるお話を羅列しましょう。
はい、あくまでもお話です。
◆今年もよろしく。
そう言って男は、その国の最高紙幣である500Bが縦に立つくらいの赤い塊を出した。
いや、そんなものは受け取れません。
若い男は、頑と断った。
その国では、正月になれば、警察官にご祝儀をあげるのが慣わしになっている。
それなのに仕事のお礼に、当然の形を受け取らない日本人に、男は怒りのようなものさえ覚えたように見えた。
◆ある理髪店にて。
ねえ、兄さん。麻雀しませんか?
レートは?
安いよ。手付金はたったの1万SPD.
いや、今日は日が悪いから止めるよ。
男は二度と、その店には近づかなかった。
◆ねえ、来月はアレ買って。
アレって?
安い家があるの。
はっ?
ううん。
そんないっぱいいらないわ。
とりあえずは1軒だけにしとくから。
はぁあ?
◆帝国ホテルにて
この度来日された女○▽下に、お心を見せていただければ、▽下のサイン入り名刺を差し上げますよ。
男は1円すら出さなかった。
ケチであるというより、常識を知らなかったのだ。
◆通行料を取るの?
はい、私有地のようなものですし、道路の管理の為です。
ふーん。
1台1000円くらいか。
1日の通行料は約1万台。
1ヶ月で、ざっと3億。
ガードマンの月給は2~3万円。10人雇っても30万程度かあ。
もっとも、こんなのはたいした上がりではない方だろうな。
◆いやあ、この程度ならいりませんよ。
まあ、そう言わずに取っておけ。
プラス2か。
おーい。お客様に二枚だ。
スイスバンクのフォーナイン2本が出された。
ブルブルブルッ。
もし負けていたらどうなっていたのか!
そう考えると、男はその黄色い光を眩しさだけではなく見られなかった。
◆街角にて
どう?
えっ?
そば一杯分だけでいいのよ。
男は、そば10杯分を握らせ、慌てタクシーをつかまえた。
◆何が好きですか?
はあ、ドリアンなんか美味いですね。
じゃあ、あのお店を買いましょうよ。
えっ?
◆船着き場にて
あのう、これで足りますか?
老婆は怒ったような顔になり、紙幣を突き返した。
うむ?
日本人と見て、ふっかけられたかな?
違っていた。
男の出したお金は、2000人分に相当し、おつりがなかったことを後で知った。
◆昼にはキャンティーンで、1SPDのミーゴリンを食べた。
夕飯は、どこぞのお偉いさんの是非ともとの誘いで、一甕6000SPDのスープを飲ませてもらった。
◆出張前日
歯が抜けてしまった。
日本人に知られている歯医者に行ったら、その日のうちに義歯を作ってくれた。
その歯は、今でもちゃんと役目を果たしている。
日本より豊かな、その南国の新入社員の月収くらいの治療費をとられたが、やはり安いと思う。
◆社宅にて
ランブータンを100円くらい買った。
フルーツ好きの男にも、とても食べきれず、半分くらいが生ゴミになってしまった。
◆日系デパートで、一包みで売っていたそのドリアンは、街角のそれに比べて桁違い、20倍くらいの値段がした。
が、確かに美味すぎるものだった。あれなら、ドリアンの匂いが嫌いという人でも食べられるだろう。
◆『アイリス』の精巧な模写があった。
邦貨にして、約20万円。
安いのか高いのかは分からないが、日本でなら贋作とはいえ、あと一つ0がついてもおかしくないものだった。
◆ホテルマンは、ジーッと紙幣を見つめたままだった。
彼は、自国の紙幣とはいえ、それを見るのが初めてらしく、なかなか両替してくれない。
とうとう支配人が出てきた。
普通の財布だと、四つ折りにしないと収まらない。
しかし、その国には、もっと大きな、年収分くらいの紙幣もあるという。
◆チップは300円くらいまでにしてください。
多い方が良いだろうというのは、あなた方の奢りです。
添乗員が言った。
◆坊やの夢は?
500Bを持てること。
男は、その夢を叶えてやろうとおもったが、思い止まり、その500分の1のコインを2枚空き缶に入れた。
◆とにかく風呂がないのには閉口した。
下着を買う。
げっ!日本の10倍近い。わたしゃ、ブランドものなどいりませんのに。
しかし、それしかない。
ああ、この国にはユニクロはないのだ。
いや、ひょっとしたら下着を付ける習慣もないのかも知れない。
◆モーテル(日本で使われている意味ではない)に泊まる。
嬉しい。
コンビニ弁当に毛が生えた程度の値段で、フルコースが味わえる。
オリーブ漬けのアンチョビ。
素晴らしい味だった。
◆高級時計で有名なその町は、ナイジェリアと並ぶ世界一物価が高い所で有名だ。
ラーメンとあるから、嬉しくなってオーダーしたのだが。
ぎゃ!
出てきたのは、カップラーメン。
こりゃ!
これで1000円も取るのかい。ボッタクリだあ!
それなら、汽車ででリヨンまで行った方が良かったわい!
男は蹴飛ばしたくなるのを、じっとこらえた。
◆街角の寺院にて
地元の人たちが、芳しい花を抱えてお参りしていた。
男は興味を覚えて、彼らの列に並んだ。
何やら、ヒンドゥーの神様のようなものにお辞儀をして立ち去ろうとした。
と、周りを頑強な男たちが取り囲んだ。
神様にお願いごとをして、何もしなかったのがいけなかったらしい。いや、男は何もお願いなどはしていなかったのだが。
当時の邦貨で1万円くらいで釈放される。
二番目の財布には、3万くらいを、別に用意しておけ。
先輩の言葉が、実感として分かった。
◆配給券
それを、地元民しか使えない紙幣とともに渡す。
と、揚げパンが一個もらえる。
しかし、その揚げパン100個分でも、すぐ隣に建つ外国人専用飯店のラーメン1杯も頼めない。
いや、だいたい、その紙幣を何百枚重ねても、自国なのに、自国の紙幣なのに、その飯店では使えない。
◆ミシュラン三ツ星
夕飯に、ジャガイモ1個 ?
いいえ、お客様の会社には、これでも大サービスをしています。
◆500円で
チーズ食べ放題。
うー。飯だけなら、ここに住みたい。
ああ、太陽がない冬さえなければ。