
私はその他派
映画だからといって、必ずしも映像になっているとは限らない。
“見えない映画”というものもある。
例えばこんなやつ。
★★★
“あいつはね、トラの毛皮を被っているけど、本当はスカンクなんだよ”と、全身黒服に身を包み、頑丈そうなヘルメットに、昔の武将がつけたような飾りをつけて騒ぐ映画。
言われたトラが、“それじゃ牙を見せてやろうか”と、喉の奥まで見せてやると、急に川向こう岸へ渡って、“あいつはスカンクなんだぞ”と、遠くからまだ吠え続ける。
まあ、実に哀れな映画である。
特に涙を誘うのが、トラとライオン、イノシンの区別がつかないことだ。
それらの区別がつきもしないのに、さも偉そうに持論を展開し、アホまる出しにしている。
実に泣ける。
さらに、泣けたのは、地面についた動物の足跡がすべてトラかスカンクだと思ってしまっていることだ。
その草原にはシマウマ、キリン、サイ、カバ……。
何百種類という動物がいる。
しかし、そいつは足跡の数は1個も違わず数えているのに、その足跡が何のものかはさっぱり考えていない。
初めから、トラの皮を被ったスカンクと決めつけている。
最近、あまり涙を流す映画には出会わなかった。
が、この映画には泣ける。
なにより、自分がすべて正しいのだ、と信じて疑わないところが、言葉にならぬほど不憫である。
また、それを巨大シネマで放映しているのには、絶句する。
もし、このプロデューサーが、そうしたアホらしさ、馬鹿馬鹿しさ、そして泣けてしまう無知の哀れさを表現したいとしたのなら、これは大成功であろう。