座っているイボイノシシ、寝ているイボイノシシ…… | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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ペットの性別は男の子・女の子どっちがいい?
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砂というよりは、ゴツゴツとした裸岩むき出しの風景が迫ってきた。

キンバレーでチャーターした、あちこちにガムテープで修復されたセスナ機は、やがて砂漠の真ん中にあるンチャナペ空港にたどり着く。

ガタンガタンという音と共に、頭がつんのめりそうになりながらも、なんとか私は硬い砂漠の土を踏むことができたのだった。


私がここに来たのは、ダイヤモンド商としての仕事ではあるが、実はコイサンたちの言語に興味を覚えたからだ。

ロッテルダム支店長という立場上、世界有数のダイヤモンド鉱山の見学という名目で、時間の大半は自由にできる。
だいたい、鉱山など見学したところで、新たな購入ルートなどできないことは、この業界にいる者なら、イロハ以前の話。
ダイヤは、世界の99%を彼らが牛耳っており、新入りが手を出したいなら、まず自分の墓を用意してからにした方が賢明だろう。


初めから、意味がないことは分かっている。


だから、私は思いっきり自分の趣味の為に時間を使うことに決めていた。



ジープに乗り込む。
運転手の隣に座るのが、ここでは第一の客である。
後部座席には、通訳と2人の傭兵が、ずいぶんくたびれたカラシニコフを握っていた。

これは野生動物に襲われた時の為ではない。

2人とも明らかにコイサンだ。
クチャクチャと舌を鳴らすような、コイサン語独特の会話を始めている。

私は胸が躍った。
生のコイサン語が、こんなに早く聞けるとは。

2人は、兵士とは思われぬほどよく話す。

私のイメージにある兵士というものとは、はるかにかけ離れていた。



と、1人が息を飲むような音、いや声を発した。

“ンハッハ”

イボイノシシだった。
私はイボイノシシはサバンナの動物と思っていたが、こんな乾燥地帯にもいる。

ほう。

私も感嘆の声をあげながらも、すぐに彼らの言葉をメモした。


と、また、はるか向こうにイボイノシシ。

私がまず声をだした。



“ンハッハ”




と、通訳も兵士も大声をあげて笑いだした。






どこかアクセントでも違ったのだろうか。



と、通訳が言った。


“旦那、あれはンハッハじゃあねえですだ。ありゃ、ナタンナトタでっせ”


“いや、さっき見たやつと同じだろうが”


“ちっ、ちっ。さっきのヤツは走っているオスでさあ。で、こっちのは、群がっているオス”


“えっ?それだけで呼び方が変わるのかい?”


“あたり前でござんしょ。えっ、旦那の国じゃあ区別しないんで。まさか、そんなおかしなことはねえと思いますがね”



“ちょっと待ってくれ。じゃあ、寝ているオスのイボイノシシと、寝ているメスのイボイノシシでも呼び方が違うのかい?”


“旦那、冗談はよしてくださんし。同じもののはずがねえでしょ。まさか、旦那の国じゃ、立っているメスのイボイノシシと寝ているオスのイボイノシシを同じ名前で呼ぶなんてバカなこたあ、しねえですよね”





私は、コイサン語を覚えることをあきらめた。








……………………………

これは小説です。
私はカラハリ砂漠に行ったことも、コイサン語を聞いたこともありません。



ただし、外国語の中には、私達の常識が通用しないことはよくあります。


例えば、英語で“牛”をなんと言うのか、私にはよく分かりません。
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