小説:人事課の北やん | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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席替えの思い出
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北やんは、もうすぐ定年を迎えれる。
新入社員の時から人事畑一筋と言えば聞こえがよいが、速い話が他の部署では使えないないから、ずっとそこにいるだけである。

他人のパスポート申請に一役かっているが(とはいえ、代理人としてパスポートの受け取りに行くだけ)、まだ、一度も海外に出たことはない。

仕事はできないが、それだけの理由で首にもできないから、人事課係長として、グループ会社間の荷物受付を日課としている。

北やんの会社は地方支店で従業員も20名足らずだから、別にそんな係は必要がない。
かといって、遊ばせておくわけにもいかず、代々の支店長の申し送り事項に、“北の字には、普段は日課として、受付だけをやらせること”の赤文字が入ることになる。

北やんは、いつもヌボーとしていて、怒ったり泣いたりする姿を見たことがある者はいない。

そんな北やんが、年に二度、だけ幸せそうな顔をすることがある。

4月と10月。

席替えの時である。

本社に戻れば課長補佐である支店長のすぐ隣が、北やんの定席だ。

が、その隣には、時に若いお嬢さんが来たりする。

幸か不幸か、北やんはいまだに独身だ。

薄くなった髪をとかしながら、北やんは時々ほくそ笑みのである。