双詩創愛 その7 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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「実は、そなたと逢う前にこんなことがあった」


男は十数年前の、柿の葉に詠まれた歌にまつわる話をし始めた。 


話が進んでくると、聞いていた女の目に、夜目にもきらりと光るものがこぼれ落ちてくるのがわかった。 

「……で、あなた様はその柿の葉に、どんな歌を詠まれて返したのですか」


男が詠じる。 


と、女は小刻みに全身を震わせながら夫の胸に顔を埋めた。 


「なんということでしょう。本当にこの世には神様や仏様がおいでなのですね。あなたと私は、やはり前世から契りがあったのですわ」


しがみついた夫の胸の中から、女の嗚咽が漏れている。


「……その歌を柿の葉に書いたのは私です。そして、あなた様の詠まれた柿の葉を拾い上げましたのも……。お待ちくださいませ」 




女は濡れた袖を口元にあてながら縟(しとね)を出、薬袋を入れている鏡台に向かった。 


しばらくすると、しずしずと大事そうに小箱を抱えて戻ってきた。 


小箱を開ける。 


「ご覧くださいまし」



「おお、これは……。おお、……」




今度は男の喉元から、獣のうなりに似た低い声があがる。 




所々に虫食いがあるうえ墨が滲み文字はほとんど読めないが、まさにあの時自分が流した柿の葉が、そこにあるではないか。 



改めて二人は、縟の中でかたく身を抱き寄せあうのだった。 








翌朝、男が家を出た後、女は軽く首を左右に振りながら、フーッと長めの息をはいた。 





           つづく