長い月日が流れた。
女はことのほか気立ても器よく、なにかと男につくしてくれた。子どもにも恵まれ、やがて男が抱いていた柿の葉の女への思いは、秋空に見えていた鱗雲が形を変え、いつしか消えてしまうように、二人の幸せな時とともに薄らいでいった。
男の髪に白いものが混じるようになったある夜のことだった。褥(しとね)の中で妻が夫に尋ねた。
「この頃は無くなりましたけど、あなた様がここへおいでになった頃は、よく遠くの空を見つめるようにしておいででした。なにか私やこの家に至らぬところがあってお悩みだったのでしょうか」
妻は夫の腕の中で首を回し、うつぶせ気味に目を伏せた。
「どうして、お前やこの家に不満があろうか」
男は妻の顔を向き直らせるように、そっと右手で髪を撫でながら、女の顔を寄せた。
しばらくの間があった。
「実は、お前と会う前に、こんなことがあった」
つづく