松とても 水にあわねば いつの日か 色もつかずに 枯るるとぞかや
男はまた、紅のなかに滲んだ女文字に目を落とした。
樫丘の宮で、ただただ声がかかることを待っているだけの女官でもあるのだろう。 毎日を期待と不安、しきたりと嫉妬、寵愛と怨念の中で神経をすり減らしているに相違ない。
そんな愚痴ひとつ言えぬ張(とばり)の中から、柿の葉に思いをしたため、手ずから池にでも流したものなのだろうか。
が、いずれにせよ、男には別世界の女である。
しかし、遠ければ遠いほど、逢えぬと考えれば考えるほど、男の女への思いは一層深まるのだった。
男は、柿の葉の流れてきた川上にある樫丘の宮に目を向けた。
黄金色の屋根が、落ちていく陽の光を二重にして男の眼を焼く。
あまりのまばゆさに、男の目に涙が滲んできた。
つづく