
彼が急にカップを置いた。
何かいけないことを言ったんだろうか…?
ユノ「結婚は…できない…」
さっきまで笑顔で話していた彼の表情が急に暗くなった。
女の私からプロポーズをしたからだろうか…?
彼のプライドを傷つけたんだろうか。
「今すぐにって言わない…」
ユノ「今すぐでも、10年待っても、結婚はできない…」
「なんで? 料理だって掃除だって…」
ユノ「うん知ってる。でもそういう問題じゃない…」
「じゃあ何?」
ユノ「ごめん…」
「ごめんじゃわからない…」
10年だ。
彼に初恋をして、10年間、彼だけを思い続けてきた。
そして、やっと彼の傍で彼に愛してもらえるようになった、そう思っていた。
ユノ「もう遅いから送ってく…」
「…一人で帰れる…」
ユノ「別れようって言ってるわけじゃない…」
「すぐに結婚しようなんて言ってるわけじゃない!」
ユノ「分かってるから…、車で話そう」
彼に出会ったのは10歳の時だった。
父親の会社の新入社員として入ってきた時に、挨拶をしに来た時だった。
車の中で彼は一言も話さなかった。
まだ私のことを幼い子供のわがままだって思ってるんだろうか。
それとも、まだ”何もない”私たちの間に、男女関係なんてないと思っているのだろうか。
「どこ行くの…?」
私の家に向かう道とはずれていた。
ユノ「…俺んち…」
そう言われた瞬間、それまでの不安はどこかに飛んでいき、その先の期待だけが膨らんだ。
この後、何が起こるのかも、まったく予想していなかった。
彼の家は会社からもそれほど離れていない場所にあった。
最近立てたれた高層マンションは、私の想像以上だった。
地下の駐車場に車を止め、彼についてマンションの中に入った。
彼が会社でどれだけの役割を果たしているのかは、父親に聞いていた。
自分の下につけて、仕事のほとんどを任せているくらいだから。
エレベーターがつくまでの間、彼の後ろ姿を見ていた。
大きくて広い背中は、みているだけで落ち着く。
毎日でもつなぎたい私の大好きな彼の手は、ポケットの中におさめられたまま。
10歳の年の差を感じる瞬間。
私は決して、この人の隣に立つことはないのだろうか。
エレベーターの中でも彼は私の顔をみることはなかった。
何を考えているのだろうか。
男女の関係を考えるよりも、彼が何を思っているのか、不安になった。
ドアの前までくるとやっと彼は私のほうを振り返り、目を合わせた。
ユノ「何があっても…、僕の話を冷静に聞いてほしい」
あまりにも真剣な面持ちで話す彼に、小さくうなずくしかなかった。
暗証番号を押し、ドアを開けると、中から走る音が聞こえてきた。
『ぱぱー!おかえりー!』
自分の耳を疑った。相手を間違えているんじゃないかと思った。
ユノ「ただいま」
私はドアの前で立ちすくみ、子供の顔さえ見ることができなかった。
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紳士の品格みてたら、すっごく書きたくなりました…。