N e w  Y o r k B l o w -NYでもタコ焼きを焼く英国人へ- -453ページ目

失くした場所


NYと言えば、ハーレム。
ハーレムと言えば、ソウルフード。
ソウルフードと言えば、Pan Pan。
そのPan Panが、10日深夜に火事で全焼した。
翌朝のニュースで中継車を出して早朝から、
ハーレムより中継を出していた。
何度も訪れた愛着のある店だったので、
言葉が出なかった。

簡単に朝食を済ませ、
早速キャメラを持ってハーレムへ向かった。
店の有る角に沢山の人が群がっていて、
話している内容から殆どが近所の人達の様だった。
皆が毎日この店に来ていた人の様で、
皆が見な、夫々にショックを受けていた。
地元で30年間もの間、深く愛されていた証拠だ。

歩道側から見た店の入口付近や、
ブルーのテントや外壁は焼け爛れては居なかったが、
割れた店のガラスが消火の時の突入を意味していた。
早速皆の話の輪に入って、色々情報収集した。
どうやら厨房から閉店後に出火したらしく、
消防隊員の軽い怪我以外の怪我人は無かった様子。
オーナーのベンさんをはじめ、ウェイトレスや、
キャッシャーの男性が無事で良かったと思った。

先日日本公演も成功させた
ハーレム出身のシンガーソングライターのアリシア・キーズは、
"You don’t know my name"という曲の
ミュージッククリップをこの店で収録した。
ラッパーのモス・デフ演じる常連客に、
ウェイトレスのアリシアが恋するという筋のビデオだった。
ベンさんも現実と同じオーナー役で出ていた。
初めてこのクリップを見た時、
どこかで見たなーと思っていたら後になって思い出して、
とっても嬉しくなったのを、焦げた匂いを嗅ぎながら思い出していた。

この店は、日本で言うところの喫茶店的な店だ。
毎朝決まった店に行き、モーニングを頼み、
ちょっとした世間話や家族の事を話して、
それからサラリーマンは出社し、
学生は教科書の束を抱えて通学。
年寄りは散歩がてら町内を一周してから帰宅したり、
そのまま9時10時頃迄残って新聞に目を通したり。
近所の住人や、近所の会社に勤める人が毎朝顔を合わせる、
正に「みんなの店」だった。
昼からはアメリカの代表的なソウルフードを出す
レストランとしてまで営業をしていた。
毎日ここへ通っていた近所の常連客は、
明日から一体何処へ行けばいいのだろう。
一体何処へ。

この店のオーナーベンさんは地元の常連だけでなく、
遠くアジアからヨーロッパの人までもが沢山来ていたと言うのを、
何度も聞いた。
広い世界のNYという街のハーレムの単なる小さな店ではなく、
世界各国から客が訪れるインターナショナルな店だという事を
誇りにしていたんだろう。
特に日本からの客は、店の近所に住む日本人ライター、
堂本かおる女史の筆によって何度も紹介された。
ずっと昔、それを読んだ事を今でも覚えている。
以前行った折に、「彼女のお陰でガイドブックを手に
来てくれる日本人観光客が多いんだ」と、
顔を綻ばせながら言っていたのを思い出す。
近所の人にこういった形で支えられているという事も、
ベンさんの誇りに違いない。

この店を失った地域の悲しみは大きい。
地域への密着度が高い店だからこそ、
みんながベンさんをはじめ店のスタッフの事を心配し、
そして店の今後の行く末を案じて居る事を、
近所の住人の話を聞いて改めて実感した。
このまま店を閉める事が無いよう、
一日も早い復活を祈るべく今日ここに記しておきたい。
あの美味しい料理を、もう一度食したいファンの一人として。
そして持参したキャメラのシャッターは、
ベンさんとスタッフの笑顔が戻った時の為に取っておいた。


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