N e w  Y o r k B l o w -NYでもタコ焼きを焼く英国人へ- -273ページ目

脇の重要性

ニューヨークなんかに居ると、
当然ながら日本演劇には疎くなってしまう。
だから日本演劇がニューヨークに来た時は、
はっきり言って、「ヨダレじゅるるでがぶり寄り」状態で見に行く。
先日も野村萬斎の舞台が有ってそれを見に行ったが、
日本人で良かった!!と実感して帰って来たばかり。

そして今回は俺ッちの永遠のアイドル・三島由紀夫の舞台、
「近代能楽集・ニューヨーク公演」が始まったので、
早速友人3人と連れ立って行って来た。
(今回は取材じゃないので、ゆっくりと見ましたよ。)

会場は日本演劇のプランを組ませれば、
ニューヨークではピカイチのリンカーン・センター。
毎年夏に催され、また現在開催中である、
リンカーン・センター・フェスティヴァルに招待された作品。
名立たる作品の中で完成度が高く、
集客力も高い公演の一つとして計3回の公演を行う、
蜷川幸雄演出、藤原竜也主演の8年前からの当たり組。

蜷川幸雄の評判は徐々に確固たる物となりつつ有るが、
藤原には未開の地。
2001年に藤原のロンドン公演は成功したが、
まだ疑問符の残る地だったニューヨーク。
ロンドンのウェスト・エンドよりも小屋数も作品数も多く、
格段に厳しい目を持つ批評家の筆がどう走るかは、
藤原の力量次第。

前評判よりもチケットが早くに売り切れる人気振りには、
昨年の中村座ニューヨーク公演の様な、
「歌舞伎」の文字が躍らない公演にも拘らず、
担当者も驚きを隠さなかったし、
私も多くの人からチケットが無い理由を、
「そんなに良い舞台なのか?」と聞かれた。

リンカーン・センターの近くのタイム・ワーナービル上の、
超高級和食レストラン(接待用の店)で食事をしてから、
4人でセンター内のローズ・シアターへ歩いて移動し、
切符を手配した私が3人に夫々切符を入口迄の間に渡し、
カツカツと鳴る靴の音を聞きながら、
入口から並ぶ列の最後に並んだ。
開幕20分前に着席した私達は、
VTRのプレヴューを見る時の様に直ぐ集中した。

幕が開いてからは集中してみているせいや、
ニューヨークでは殆ど日本人との付き合いをしない為、
今や日頃聞かない昔ながらの日本語の言い回しを、
聞き漏らさない様にダンボ状態になって、
舞台に惹き付けられ本当にあっという間に終わった。


逆宝塚状態の『卒塔婆小町』

強力脇役の『弱法師』Stephanie Berger


三島由紀夫の「近代能楽集」は60年代後半に出版され、はや30年以上で、
今迄に何度となく沢山の演劇人によって舞台化された戯曲。
鋭く、巧みに心理を描く手腕に掛けては秀でた才能を持った三島の、
その才能は小説だけでなく戯曲にも遺憾なく発揮されていた為、
当時の演劇人は下手な脚本家のホンを使うよりも、
戦後の変化をしていた日本の世の中に、人々の心に、
三島のグサグサと強く突き刺さる台詞で訴えかけたかったのだ。

藤原が演じたのは上演された「弱法師」と、
「卒塔婆小町」の内の「弱法師」の盲目の美少年。(二言なし)
現代の家庭裁判所を舞台に、
親権を巡る争いの渦中に置かれる、
東京大空襲で視力を失った少年を描いた作品。

劇中には70年に自衛隊市谷駐屯地での、
自決直前の作者三島の肉声演説を流し、
話の流れにより緊迫性を持たせたり、
藤原の演技に強弱を強くつけたり、
場面転換での舞台の仕掛けも上手く働き、
文字通り流れる様な舞台運びで観客の心を掴み、
退屈させられる事はなかった。

すると拍手、拍手、拍手の嵐。
カーテン・コールは4回も数え、
鳴り止まぬ拍手と絶賛の掛け声が彼方此方から飛び交い、
初のニューヨーク公演の成功を、
1100人程の観客の反応が見事に証明していた。
それほどに藤原は成長していたのだ。

だが、それは見事な脇役に綿密にカバーされていたのと、
オール男性キャストの『卒塔婆小町』の出来も良かったからでもある。
主役が良いのは『当たり前』で、瑳川哲朗、鷲尾真知子、夏木マリ等の、
本来なら主役を張る役者を脇に回して居たからこそとも言える。
(個人的にはハラダ君という俳優が気になった。後2回見るので要チェック!)
「弱法師」の中で瑳川哲朗を見つけた時、これで安心とも思った。
(思わず「大江戸捜査網」のテーマ曲が、
 脳裏でグルグル回ったのは言う迄も無い事実...)

3人の友人はカナダ人女性、アメリカ人男性、
オーストラリア人男性の全員白人で私が唯一の日本人。
今回の舞台を見て、本当に日本人で良かったと思った。
それは彼らの読んでいた字幕では、
十分に三島の日本語の美しさを伝える術が無かったからだ。
帰りにお茶をした時に彼等は彼是判り辛かった所を、
より解釈を深めようと色々と聞いてきたのも証拠の一つ。

ギザギザのとげとげしい台詞だけど、
短くその感情を伝える事が出来る簡潔な言葉たち。
英語ではどれにも当て嵌まらない日本語が、
台詞の彼方此方に溢れていた。
そして日本語の美しい流れと響き。
奥深い言葉の一語一語に込められた意味を噛締める度、
世界一習得・使い分けが難しい言葉を、
何の不自由も無く理解出来る事が嬉しかった。

私が小学2年の頃に伯父がこの本をくれた時、
三島が「この戯曲を本場ニューヨークで掛けたい」
と言っていたのを思い出した様に教えてくれたのを、
今回のニューヨーク公演の話を聞いて不意に思い出した。
伯父は三島の家の数軒横に住んでいて、
個人的にも親交が有ったらしく、
「たまにお化け(=三輪明宏)が来るんだ」と言っていた。

友人3人は口を揃えて、藤原君を中学生と思っていたが、
既に23歳の藤原君のデビュー以来、念願のニューヨーク公演。
念願叶い、今回何度もアンコールに呼ばれて成功を飾った。
だがこのニューヨーク公演は何よりもここへ持って来たかった、
作者の三島由紀夫が喜んでいるに違いないと思い、
深夜に帰宅してから日本語の書棚の三島の欄を覗き、
読み返す本を選んだ。




近代能楽集
三島 由紀夫






金閣寺
三島 由紀夫
 雷蔵の『炎上』が映画化作ではベスト




三島由紀夫の家
篠山 紀信
 三島が住んでいた住居を篠山が撮影
 『お化け』の影響が見え隠れ...

追記:ニューヨーク・タイムスの30日の記事
    絶賛とまではいかないが、それに近い評価。
    カラー写真が出るのは、良かった証拠。