第2章 慟哭 | ☆LOVE&PEACE☆~日々の出来事~

第2章 慟哭

「すみません、○○病院までお願いします。」運転手にそう告げ、駅から急いでタクシーで病院まで向かった。いつも救急車が止まっている救命センター入口から、小走りで病院の中に入った。待合室には見慣れた家族や親戚の顔があった。

「理緒ちゃん!」
叔母の洋子が私の元へ駆け寄った。

「おばあさんは?」
「今、検査中よ。CT撮ってる。」

「意識は戻った?」

「・・・」叔母が首を横に振る。その顔であまり様子が芳しくないことが伺えた。

救急車を呼んでくれた従兄弟が、詳しく祖母の様子を説明してくれた。血圧は200を超えていて、救急隊員の人に測定不能と言われたこと、何度呼びかけても祖母の反応がなかったこと、それを聞いてまた私は涙ぐむ。

祖母が倒れた日は、くしくも曽祖母の命日であった。その数日前に祖母とお墓参りに行ったばかりだった。「まだおばあさんを呼んじゃだめだよ。おばあさんは長生きするんだからね。お願いだからおばあさんを見守って。」天を仰ぎ先祖にそう願った時だった。

「あっ、おばあさんだ。」従兄弟が自動ドアの向こうの廊下を見ながら叫んだ。CTを撮り終えた祖母が、ストレッチャーで別の検査に向かう途中だった。

「おばあさん!」私は暗闇に消えるストレッチャー目掛けて、祖母の元へと走った。検査室の前に到着した祖母は、別のストレッチャーに移し換えられるところだった。そこには今まであんなに元気だった祖母とは思えない、別の祖母が目を閉じて微動だにせず横たわっていた。

「おばあさん、おばあさん!おばあさん!!」祖母は私の声に何も反応しない。静まり返った病院の中で、私は大声で泣き叫んだ。ただ私の慟哭だけが辺りに響き渡っていた。私はその場に崩れ落ちてしまった。2人の看護師が「大丈夫ですか?」と私の両脇に腕を差し込み、立ち上がらせようした。「本城さん、待合室に戻りましょう。」私は泣きじゃくりながら、こくりと頷いた。

待合室に戻りしばらくしても、私はなかなか冷静さを保てずにいた。10分ほど経っただろうか。
「本城綾子様のご家族の方いらっしゃいますか?」と看護師に呼ばれた。

「はい。」と父が返事をする。

「本城さんは検査が終わってあちらのベッドに戻られましたので、ご家族の方、どうぞ行ってあげて下さい。」私は看護師の手の向く方を振り返り、父と私で祖母のベッドへと向かった。

祖母に一歩一歩近づく。意識が戻っていますように…。祈りながら祖母に声をかけてみた。

「おばあさん」祖母は目を閉じたままだ。血圧が上がっているのか顔が紅潮している。

「おばあさん…」もう一回呼んでみても祖母の様子は変わらない。その時だった。祖母が一瞬、目を開けた。

「おばあさん!」私の声を最後まで聞く間もなく、瞬時に祖母は目を閉じた。しかし祖母は無意識か否か、左手で枕を直す仕種をしたり、しきりに布団からはだけた肌を隠そうと、布団を掛け直していた。その仕種はいつもの祖母の癖であった。目の前の光景を受け入れる余裕もないまま、テレビでしか見たことのない酸素マスクや心電図の機械や色々な医療器具が目に入る。それらが祖母の体に備えつけられている。この光景が、いつも見ているテレビの中のドラマであってほしい。でも目の前に起きていることはすべて現実であった。心電図のモニターを見ながら、祖母の心臓音が止まっていないことを確認し、私は大きく深呼吸をした。

その時、先程の看護師が私の近くに来て「本城さん、先生から検査の結果の説明がありますので、廊下に出てもうしばらくお待ち下さい。」と一礼をして行った。