藍染×ギン

─────







手作りチョコの作り方が書かれたメモ用紙を松本から受け取った市丸。

あれからまる一日が過ぎた。



市丸が何をしていたのか。
当然、今日と言う日の為にチョコ作りに励んだ。



そして、練習に練習を重ねた市丸はバレンタインチョコを作り始めた。

未だに慣れない手付きで、包丁を握りチョコレート(板チョコ)を細かく刻んだ。

温かいお湯を入れたボールの上にもう一つのボールをのせれば、細かく刻んだチョコレートを入れ、溶けるまで混ぜた。

市丸は、現世から調達した道具の中に、様々な形をした形抜きを用意していた。

『んー…何がええやろ?やっぱり定番なハート形がええんかなァ?』


顎に手を添えれば、机に並べられた様々な形抜きを見詰め悩んだ。

一番の定番はやはりハート形である。

市丸が買って来た形抜きは他に、星、クローバー、ダイヤ、スペードなどと言った、至って普通の形ばかりだ。


最終的に彼が選んだのは、ハート形の小さい形抜きと大きな形だ。


『せや、これに飾り付けすれば良くならへん?現世で言う“デコレーション”言うやつやっけなァ?あれ、面白そうやし…そや、それにしよ』


一人ブツブツと喋りながら、市丸の手作りチョコ作りは続いた。




溶かしたチョコレートを選んだハート形の小さい形抜きと大きい形抜きに綺麗に流し込めば、それを冷蔵庫で数時間冷やす。

ここまでの段取りは、簡単そうに見えるが…やはり、男の市丸にとっては初めて作るものである。

難しいと感じても可笑しくはない。



『とりあえず、チョコレートが固まるまで時間あるし…飾り付けでも考えとこうか』








暫くして、市丸が飾り付けを考えていると扉がノックされ。


「ギン、居るかい?」


聞き覚えのある声。


それは、今一番この部屋に入れてはならない人物だった。


『(なんでこないな時に!?)』


市丸は驚き、机の上の物を床に落としてしまう。


『しまった』っと思った時にはもう遅く、部屋の中から聞こえた音に彼は扉を開けていた。


「なんだ…やはり居るんじゃないか?どうしたんだい?ギン?」


尻餅を付いている市丸を見れば、何やら可笑しくて口許に笑みを浮かべ問い掛けた。


『な、なんでもないですわ!//』


市丸はこんな姿を藍染に見られ、恥ずかしくなったのか頬をほのかに染めた。

その場に立ち上がれば、藍染に背を向け深刻そうな表情を浮かべる。


『(ど、どないしよう…バレてまう)』


直ぐ様この部屋から藍染には出ていってもらわなければ、自分がバレンタイン用のチョコレートを作っている事がバレてしまう。


「ギン?どうしたんだい?さっきから?様子が変だ…」

『え?そんな事あらしまへんよ』


市丸がそう言って振り返ると、藍染が直ぐ傍まで近付いて居り、市丸はその場に固まる。


「いいや…やはり変だ」


そう言うと藍染の視線に、溶かしたチョコレートの余りが映り、市丸が此処で何をしていたのかと直ぐに理解した。


「あぁ、なる程。そう言えば、今日はバレンタインだったね?」


藍染はそう言って市丸の反応を伺った。


『え?そ、そうなんや?』

明らかに動揺している。

そんな市丸を可愛らしく思った藍染は、小さく笑うと相手の体を抱き締めてやる。


『藍染隊長?』


急に抱き締められれば、市丸は首を傾げ。


「君の本命は、この私かな?」


『……』


バレてしまった…そう思った市丸は、観念した様に表情を緩ませた。


『バレてしもうたら仕方ないね』


「バレンタイン用のチョコは、まだ作っていないのかい?」


『ん?えーと…』


返答に迷う市丸を余所に、藍染は溶かされたチョコレートを指に付けそれを舐め取れば、市丸を見遣る。


「私はね、ギン…チョコレートはこう言う食べ方が好きだ」


『……なっ!?』


そう言うと、市丸の体を机の上に押し倒し、上半身の死覇装を着崩した。

溶かされたチョコが入ったボールを手に取るなり、それを露にされた市丸の胸板に少量垂らし。


『藍染隊長!!な、何をしはるんですか!?//』


胸板に掛けられたチョコレートがまだ生暖かく、市丸はその感触に顔をしかめた。

「見てごらん、ギン…ホワイトチョコレートとマッチしているだろう?」


『ホワイトチョコレートって…』


市丸の白い肌をホワイトチョコレートと例えれば、藍染は胸板に垂らしたチョコを舌で舐め取る。


『……っ///』


市丸は、藍染の行為を見て恥ずかしくなり顔を逸らした。


「バレンタインチョコは君で十分だ」


『十分言うても、ボク美味しくないし…//』


舌で舐められる感覚に、擽ったさを感じ吐息吐けば藍染を見遣る。


「美味しくない訳がない。君はこんなにも、甘くて美味しいじゃないか?」


『藍染、隊長///』












甘い誘惑に誘われたのか…それとも、市丸が作っていたあのチョコレートの中に、藍染をそうさせる何かが入っていのか。

二人はこの先、もっともっと甘い時間を過す。





冷蔵庫の中に残された作りかけのバレンタインチョコはどうなったかと言うと。



「(あ~ぁ、せっかくあそこまで作ったのに…まぁ、ええかァ)」


何もデコレーションされていないあのハートチョコは、密かに吉良の机の上に置かれていたと言う。




─────

秘密の計画*その③*完



ん…お粗末だな。←

ギン×乱菊

──────




手作りチョコは如何にして作るのか。

男である市丸は、今まで自分で料理を作るなどした事がなかった。

手作りとは、出来合の物ではない。その素材を使い、自身で製する事を言う。自分なりに手を加えて仕上げた物の事だ。



料理経験がなければ当然、菓子作りなど簡単に出来る訳もなく、市丸はその事に悩んでいた。


『手作りチョコって、どう作るんやろか……分からへん…』



自舎に戻る途中、市丸の頭にある者の存在が浮かんだ。


『せや、こう言うはやっぱり女の子に聞いた方がええな』


そう言って掌をポンと叩くと、市丸は十番隊舎へと足を運んだ。














「手作りチョコの作り方?」


そう言って首を傾げて居るのは、十番隊の副官であり市丸の幼馴染みでもある“松本乱菊”だった。


『せや。手作りチョコってどうやって作るん?乱菊、作り方知ってる?』


「そりゃ知ってるわよぉ?アタシだって女なんだから、手作りチョコぐらいの作り方なんか…けど、なんでアンタがそんな事知りたい訳?」


そう聞かれるのも当然。

女が男の為に作り渡すモノであるからだ。


『いや…別に聞きたいだけや。いつも女の子は、どう手作りチョコ作ってはるんか、気になってんねん』


「ふ~ん?まぁ別に良いわよ?」


『え?ほな、手作りチョコの作り方、教えてくれるん?』


上手い事、松本の言葉に引っ掛かってしまった市丸は、口を思わず閉じ眉を寄せた。


『(しまった…)』


「やっぱり作り方知りたいって事は、ギン…あんた誰かに作ってあげるつもりなのね?」


松本はそう言ってクスクスと笑った。


『ホンマ、乱菊の上手い口車に乗せられてもうたわ…』


バレてしまった事に気を落とすと、松本は市丸の頭をそっと撫でた。


「あら、いいじゃない?チョコをあげるのなんて、別に女だけだって“絶対”に決まってる訳じゃないんだし?アンタがあげたい人にあげれば、その人も絶対喜んでくれるわよ!」


『…せやろか?』


不安そうに市丸がそう言うと、松本は市丸に小さなメモ用紙を手渡した。


『これ…』


「手作りチョコの作り方が書いてあるわ」


『乱菊…』


「アタシもね、実はよく知らないのよ。だから、本からメモ取って作るつもりだったのよ。けど、今受けてる任務が忙しくて、どうも作れる時間がなさそうなのよね」


そう言って松本は笑み浮かべた。

市丸は、松本の優しが胸に滲みた。


『おおきにな、乱菊…』


「…何よ、そんな辛気臭い顔しちゃって!」


『せやけど、なんか悪い気ィがして』


相手が忙しくしていると言うのに、自分はバレンタインの事で頭がいっぱい…浮かれているようで、市丸は申し訳なくなった。



『アタシの事なら気にしなくていいわよ!そりゃ任務は面倒臭いし、やりたくないけど…やらないと隊長がうるさいしね』



優しさに明るく元気に振る舞う松本の姿を見れば、市丸はうっすらと笑みを浮かべた。


『おおきに、乱菊』


そう言うと市丸は、松本の頬に触れるだけのキスをした。


「……ぇ?」


一瞬の出来事だった。

松本はキスされた頬を手で抑え、市丸の思わぬ行為に頬を染めた。



『乱菊、ホンマおおきにな?これであげたい人に、あげられるようになった』


そう言って笑みを浮かべた市丸は、松本に手を振った。














大好きなあの人にあげられる。

自分の作ったチョコをあげられる。


市丸の想いは、そうして更に膨らんでいった。



『待っとってや…ボクの想い、アンタに届けたるさかい』


そうして市丸は小さく呟いた。


──────

ギン乱も萌える。←


ギン(イヅル+雛森)

──────





その日は近々。

月日が流れるのは遅い様で早い。




筆を持つ手の動きは止まったまま、仕事も中途半端で椅子に座り考え事をしているのは、三番隊の隊長・市丸ギンだった。




「市丸隊長、さっきから手が止まってますよ?何をそんなに考えてるんですか?」


そう声を掛けたのは、三番隊の副官・吉良イヅルだ。

『なァ、イヅル?やっぱり、チョコは義理貰うんは嫌や?』


「……はい?」


いきなり聞かれた事に、吉良は首を傾げた。


『せやから、チョコは義理貰うは嫌かって聞いてんねん』


「え、いや…それは、人それぞれだと思いますけど…僕的には、やっぱり気持ちの篭った手作りを貰えた方が嬉しいですね」


『やっぱり手作りの方が貰う方も嬉しいやろなァ…』


頬を掻きながら、吉良は心の内で思った。

「(バレンタインの事をこんなにも早くから気にするだなんて…もしかして市丸隊長)」


自分の手作りチョコを期待しているのだろうか…と、そう思うと自然に笑みが溢れ嬉しく思う吉良だった。










吉良の意見を聞いた市丸は、仕事を終えると一人、五番隊舎へと足を運んだ。




『藍染隊長、居ります?』

「市丸隊長?」


ひょっこりと藍染の居る部屋に顔を覗かせると、そこには藍染の姿はなく、市丸の声に振り返ったのは五番隊の副官・雛森 桃だった。


『あら?藍染隊長は?』


「藍染隊長なら、朝から大事な任務受けて出払っていますけど?隊長に何かご用意でしたか?」


『そうなんや…いや、別に大した事やないからええねん。ほな、今は雛森ちゃんだけなんや?』


「はい。書類の整理をしてたんです」


藍染の姿がない以上、此処に居る意味はなかった。

だが市丸はふと思った。


『雛森ちゃんって、バレンタイン…誰かにチョコあげるん?』


予想はついていたが、わざとそう聞き。


「え?バレンタインですか?」


『せや…誰にあげるん?』


「えっと、シロちゃんと…阿散井君や吉良君、それから藍染隊長に、です」



バレンタインは正式に、女性が男性にチョコレートをあげるもの。

一人の人間にあげる事が正式なのか、それは定かではない。


数人の人間にチョコレートをあげると言った雛森の考えに、市丸は顔をしかめた。


『雛森ちゃんって色んな人にチョコあげるんや?やっぱりあげるチョコは手作りなん?』


「そうですね…作る時間があれば、手作りで渡したいと思ってます」


『気持ち篭ってた方がええもんな』


そう言うと、笑みを浮かべその場を後にした。












『やっぱり手作りやんな』

一人ブツブツと呟き歩いていた。

これをあげたらあの人はきっと喜んでくれる…市丸は、そう思うとその日が待ち遠しくなった。



そして、この日から市丸の密かな計画が立てられて行くのであった。


──────

バレンタインに向け連載で書こうと思った。

ギンが手作りでくれると思うと…フフッ……嬉しいね。←

いや、お粗末だったかな。