「ってなことがあったんだ。不思議なこともあるんだな」
 先輩はそう締めくくった。

 夜。
 焚き火と兄弟子とポポドスしか、動くものがいない荒野。
 ときおり地面をすべるのは夜行性のトカゲだろうか。

 シンと冷えた空気が夜闇を深くし、薪の爆ぜる音が硬い地面に弾かれて空へと響く。

 遠路の任務は野宿をして現場に向かう。
 途中の町や村で宿を請うことは滅多にしない。
 土地柄、魔導士は嫌われることもあるからだ。

 ポポドスも慣れたもので、砂漠より暖かい荒野の夜は意外と快適だ。



 二人は明日、仲間と合流して任務に当たる。
 結局ポポドスは本部預かりの見習いとしながら、南の支部で動き回っていた。

「その……レン、という子ですけど、女の子なんですか?」
「いや、男なんだ、実は」
「アンレーナって……」
「女名だな」
「……グレますよ」
「カワイくていいじゃないか。

 まだオレたちにも慣れてなくってさ、師匠の後ろに隠れて怯えるところがまたカワイイんだ。
 オレの頭がどうにかなっちまいそうだよ」
 もうイカれてるよとは、ポポドスは言わないでおいた。



 翌日、指揮官のもとには、ポポドスたちともう一組が揃った。
「うーわー……少ね。
 経費ないのかよ」
 指揮官ミマがぼやいた。

 連勤の疲れがピークに達しようとしているのか、ミマの目が据わっている。
 そのうえ、現場が悪魔の領域と近いというのに、集められたのは七人。
 役導士は相変わらず人手不足だ。

「やつらオレを殺す気だ!」
 ミマが叫んだ。
「おまえが死んだら人事が泣くぜっ」
「落ち着けミマ。何とかなるさ」
「成せばなるさ」
「成さねばなるまい!」

 やんややんやと仲間たちがミマを励ます。
 ミマが優秀なのは誰もが知っているし、結局どうにか無事に終わるだろうことを感じていた。
 それくらい、ミマの指揮官としての才能は優れている。





 異界との溝を結界で囲み、仲間が補修していく。
 出てくる異形のモノモノは小さいが、気を抜けば腕の一本は持っていかれるだろう。

 こういった異界との溝は、世界中のあちこちで発生する。
 発見されるとすぐに結界を張る。
 だがそれは一時的なもので、綻んだ結界を直すことを彼らは『補修』と呼ぶ。

 異界との溝が発生する理由はまだ解明中らしい。
 今はただ、見つかるたびに結界を張り、補修していくしかない。



「で、君はどこの子?」
 仲間たちの目となるために、ポポドスはミマと背中を合わせて司令塔を務める。
「言ってなかったっけ?
 まぁた本部預かり南応援だってさ」
「聞いてねぇ……」
「そりゃ……悪かった」

「いつ? あーソコ左斜め!」
「ひと月なかったな。ドド先輩うしろデカイの来てます!」
「だからツボ売りなんて無理なんだよ」
「…………。

 ルース導師って人がさ、召喚士を探してるんだって」
「ってハゲ! 手ぇ抜くな! おまえが召喚士?」
「まだわかんないけど。そこ三人足元注意!」
「ツボ召喚?」
「雨水溜め放題だな」

 二人の指揮者は無駄口を挟みつつ的確な指示を出し、仲間はテキパキと敵を倒し、結界の補修を済ませた。