「見舞い? 師匠も律儀だな」
ミマは笑った。
手土産に持ってきた揚げ菓子に早速手を出す。
その甘さに唸りながらお茶淹れて、と当然のように命じる。
「ただの寝不足だよ。あと二・三日は寝てろってさ」
「そのおデコのたんこぶは何だよ」
「これ? あぁあ。倒れたときに打った」
前のめりだなんて、男前な倒れようだったようだ。
「どうして無理に出たんだよ。
ほかのやつに代わってもらえばよかったのに」
「現場近くの村長が偏屈でさ、オレとじゃないと口利かないんだ」
ミマは魔導士としての能力は低い。
だが現場では指揮官としての能力があり、また話術も巧みだ。
というより、人懐こい。
「話だけつけてあとは任せればよかったんだ」
ミマはニヤニヤと笑った。
「なに? 心配してくれんの?」
「心配したから来たんだ」
「…………」
ポポドスの珍しい真面目な声に、ミマは目を丸くした。
経験はミマのほうが確実に上だとわかっている。
それでも、どんなに有能な人間でも数をこなせば疲れる。
休みなく緊張の中にいれば尚のこと。
「役士が足りないのは俺だって知ってるよ。
でも、無茶はするな」
「……そんなこと、魔導士でもないおまえに言われたくないなぁ」
ミマは空の茶器をつき返した。
茶器を受け取らないままおかわりを注ぐポポドスは、ポツリと呟いた。
「戻ってきたよ」
「………………は?」
「イグリス師匠のところに戻ってきた。
また一からやり直しだ」
ポカンと口を開けたミマから並々と注がれた茶器を取り上げ、こぼれないようにと机に置く。
「よろしくね、おねえちゃん」
ポポドスがニマッと笑うと、予想通りミマのパンチが飛んできた。
なぜミマが男装しているのか誰も知らない。
誰も聞こうとしない。
ポポドスも一時期、気になって師匠に尋ねたことがある。
『より良い人生を送りたいなら聞くな』
そんな回答をいただいたら聞きたくもなくなる。
冗談で女扱いするのは、機嫌がいいときなら許してもらえる。
機嫌の悪いときは何をしてもだめだ。
身長差のせいで見下ろしただけなのに、蹴られたときもあった。
今は機嫌はそんなに悪くはないと思う。
ただ体調は悪い。
そんな相手を気遣うのは当然だ。
だからポポドスは、奥歯まで浸透した痛みを堪えた。
涙目で。
「……じゃ、俺、帰るわ」
「おう。来たついでに砂蛇に噛まれていけよ」
右頬を押さえて無理に笑う弟弟子に、ミマはあっさり返した。
南の大陸はそのほとんどが荒野と砂漠の土地。
どこにでも現れる砂蛇は強い毒性は持たないが、あるかないかのつぶらな瞳と細かな歯がびっしりと並ぶ口が気持ち悪い。
「噛まれんのかよ」
「遠慮するな」
「…………」
冗談だとはわかっているけど、今は泣きたい。
痛すぎて。
「師匠によろしくな」
「おう。……って、起きるなよ」
寝台から降りようとするミマを制す。
「玄関まで」
「いいって。寝てろよ。
せっかくの睡眠時間が減るだろ」
「バカおまえ。
ペイレウク大師が止めに来てくれたらどうするんだよ」
そっちかよ。
ポポドスはしかたなくミマに上着を着せた。
その後ポポドスは、帰還するまでに十三匹の砂蛇に遭遇した。
ミマの差し金だろうか……。
噛まれはしなかったものの、なんだかショックだ。
寮に帰るなり不貞寝した。
その様子を見ていた兄弟たちは予想以上にミマが悪かったのだと勘違いし、師匠にミマの復帰延期を嘆願しに走った。
ミマって愛されてるよなぁ、と羨みながらポポドスは寝た。
ミマは笑った。
手土産に持ってきた揚げ菓子に早速手を出す。
その甘さに唸りながらお茶淹れて、と当然のように命じる。
「ただの寝不足だよ。あと二・三日は寝てろってさ」
「そのおデコのたんこぶは何だよ」
「これ? あぁあ。倒れたときに打った」
前のめりだなんて、男前な倒れようだったようだ。
「どうして無理に出たんだよ。
ほかのやつに代わってもらえばよかったのに」
「現場近くの村長が偏屈でさ、オレとじゃないと口利かないんだ」
ミマは魔導士としての能力は低い。
だが現場では指揮官としての能力があり、また話術も巧みだ。
というより、人懐こい。
「話だけつけてあとは任せればよかったんだ」
ミマはニヤニヤと笑った。
「なに? 心配してくれんの?」
「心配したから来たんだ」
「…………」
ポポドスの珍しい真面目な声に、ミマは目を丸くした。
経験はミマのほうが確実に上だとわかっている。
それでも、どんなに有能な人間でも数をこなせば疲れる。
休みなく緊張の中にいれば尚のこと。
「役士が足りないのは俺だって知ってるよ。
でも、無茶はするな」
「……そんなこと、魔導士でもないおまえに言われたくないなぁ」
ミマは空の茶器をつき返した。
茶器を受け取らないままおかわりを注ぐポポドスは、ポツリと呟いた。
「戻ってきたよ」
「………………は?」
「イグリス師匠のところに戻ってきた。
また一からやり直しだ」
ポカンと口を開けたミマから並々と注がれた茶器を取り上げ、こぼれないようにと机に置く。
「よろしくね、おねえちゃん」
ポポドスがニマッと笑うと、予想通りミマのパンチが飛んできた。
なぜミマが男装しているのか誰も知らない。
誰も聞こうとしない。
ポポドスも一時期、気になって師匠に尋ねたことがある。
『より良い人生を送りたいなら聞くな』
そんな回答をいただいたら聞きたくもなくなる。
冗談で女扱いするのは、機嫌がいいときなら許してもらえる。
機嫌の悪いときは何をしてもだめだ。
身長差のせいで見下ろしただけなのに、蹴られたときもあった。
今は機嫌はそんなに悪くはないと思う。
ただ体調は悪い。
そんな相手を気遣うのは当然だ。
だからポポドスは、奥歯まで浸透した痛みを堪えた。
涙目で。
「……じゃ、俺、帰るわ」
「おう。来たついでに砂蛇に噛まれていけよ」
右頬を押さえて無理に笑う弟弟子に、ミマはあっさり返した。
南の大陸はそのほとんどが荒野と砂漠の土地。
どこにでも現れる砂蛇は強い毒性は持たないが、あるかないかのつぶらな瞳と細かな歯がびっしりと並ぶ口が気持ち悪い。
「噛まれんのかよ」
「遠慮するな」
「…………」
冗談だとはわかっているけど、今は泣きたい。
痛すぎて。
「師匠によろしくな」
「おう。……って、起きるなよ」
寝台から降りようとするミマを制す。
「玄関まで」
「いいって。寝てろよ。
せっかくの睡眠時間が減るだろ」
「バカおまえ。
ペイレウク大師が止めに来てくれたらどうするんだよ」
そっちかよ。
ポポドスはしかたなくミマに上着を着せた。
その後ポポドスは、帰還するまでに十三匹の砂蛇に遭遇した。
ミマの差し金だろうか……。
噛まれはしなかったものの、なんだかショックだ。
寮に帰るなり不貞寝した。
その様子を見ていた兄弟たちは予想以上にミマが悪かったのだと勘違いし、師匠にミマの復帰延期を嘆願しに走った。
ミマって愛されてるよなぁ、と羨みながらポポドスは寝た。