「ごめんね、ポポドス」
 そう言って彼女は彼の前から去っていった。

 これで四度目だ。
 何がって、振られたのが。
 恋人に振られたのは人生のなかで四度目なのだ。





「どう思います、大お祖父さま!?」
「いつまでも見習いのおまえに、愛想がついたというところだな」
「……!」
 ひどい。
 昔から遠慮のない人だが、傷心のひ孫にいう言葉ではない。

「だいだいな、ポポ」
 曽祖父は召喚獣に淹れさせたお茶を飲み、溜め息をついた。
 その仕草は老齢したもののようだが、外見はポポドスよりも少し年上にしか見えない。
 いつ見ても無駄に若い。

「一人前の魔導士でもないおまえが他人に現を抜かしているから悪い。
 魔導士を辞めたいのなら、まずは魔導士になるべきだろう?」
「そりゃそうですけど……」

 悲しいかな、ポポドスは魔導士身習いを二十年近く続けている。
 小さい頃から素質を見込まれ、叔父と父に強引に学舎にいれられ魔導士に師事させられたが、どういうわけか能力が開花しないのだ。

 これに首をかしげる父に鍛錬がぬるいと叱られ、意気地がないと叔父に笑われ、目の前の曽祖父にはこのとおり、呆れ顔をされている。
 魔導士なんて大嫌いだ!



 そもそも、なぜポポドスが、成りたくもない魔導士にならなければいけないのか?
 実はこれでも、魔導家と呼ばれるほど多くの魔導士を輩出してきた一族の生まれなのだ。
 歴代の大魔導師の半数は、彼の一族、リーイ家の人間だと言われている。

 ポポドスの目の前にいる曽祖父───性格には曾祖母の兄弟───も、早々に引退してはいるが、その特殊能力は右に出る者がおらず、今でも任務に借り出されているようだ。

 ポポドスの父ももちろん優秀な魔導士で、今では故郷で子どもたちの教育に当たっている。
 ポポドスを無理やり師事させた叔父など、南の支部で重任に就いている。
 会ったことはないがほかにも、健在の叔父たちは重鎮として、従兄弟たちは有望株といわれているらしい。

 とにかく、リーイ家の男の大半は魔導士だ。
 魔導士でないリーイ家の男などリーイ家の人間ではないと言われるほど。

 でも、できることならポポドスは、リーイ家を追い出されてもいいから魔導士になりたくない。



「大お祖父さま。
 俺、本当に魔導士に成れるんでしょうか?」
「運しだいだな」
「うん?」
「おまえに魔導士としての素質があることは、わたしもわかる。
 だが、おまえが何をきっかけにして開花するのかはわからない。
 だからおまえの場合、修業や鍛錬以上に、現場に出ることだな」

 そういうわけで、ポポドスは魔導士身習いのくせに任務に出ている。
 もっぱら兄弟弟子にくっついていくのでいいのだが、他門の人間がいるとものすごく冷たい目で視られる。

 こんな風に。
「見習いが何してんだ?」
 他門の魔導士がポポドスを見下ろしていった。
 これで何度目だろうか……。
 辞めたい。

「導師長の命令でいます」
「…………ふーん」

 任務に出る魔導士のことを役導士というが、その長は役導師長。
 それと肩を並べる導師長の命令なら仕方がない。

 と、頭では思っているが、他門の役導士は見習いが現場にいることが気に入らないようだ。
 試験も受けずに美味しいところだけいただこうなんてそうはいかねェゼ、なんて感じだろうか。
 ポポドスだって好きでいるわけではないのに。

 っていうか、無給だぞ。
 タダ働きなんだぞ!



「ポポ、気にすんなよ」
 他門の役導士が去って、ポポドスの肩に腕を乗せて言ったのは同門のミマ。
 オナベな先輩だ。
「あいつ、このまえの試験に落ちてイラってるんだよ。
 無視無視。
 それよか、現場さきに洗ってくれ」

 ミマは魔導士としての能力は低いものの、指揮官としては優秀で、このところ休みがないと愚痴っている。
 それでも現場に出れば目の色が違う。

「気をつけろよ。悪魔の領域が近い」
「そんときは先輩の好きな黄色い声で呼びますから」
「ゼッタイ行かない」
 なんて冷たい先輩だろう。