だが、ルフェランは大人だ。
自分だけ不合格だったことなど気にもとめないふりをする。
「今日から史学も入るんだっけ?」
「文学を増やしても、講師の授業は増えないし」
「史学はどっちを?」
「国史と帝史を二・一くらいで」
「帝史はキッついよ~?」
「らしいな。
だから試験は国史を受けるつもりなんだ」
賢明だね、とルフェランは笑った。
二人はそれぞれの教室に向かうべく別れ、昼休みに這い出て来たトルクと三人で昼食を摂った。
午後からは、まだ残っている酒を流すんだと、トルクは訓練場へ行くようだ。
「ヨウスも一緒にどうだ?
汗かくと気持ちイイぞ!」
爽やかに笑う口元の白い歯が眩しい。
「ヨウス止めろ。
死ぬぞ」
ルフェランが止めてくれた。
もちろん、まだ死ぬ気はない。
トルクは飛び跳ねるような足取りで行ってしまった。
あとは史学か文学の初級を取るだけだ。
気が楽になったのだろう。
「夕方はクワイトル司祭様のとこ?」
「いや、今日は休み。
お二人で会食に呼ばれているらしい」
「じゃぁ、僕は実家に帰るから、また明日」
ヨウスは文学、ルフェランは法学の授業を受けにまた別れた。
午後の授業が終わり、本館から出たところでトルクを見かけた。
武科の生徒と数人連れ立って、街に出かけるようだ。
大柄な集団で、嫌でも目立っていたので、声をかけるのを躊躇った。
しかし、ヨウスに気付いて、トルクが手を振る。
「ヨウス!
フロに行かないか?」
互いに近付いたところで、ヨウスの鼻は汗の匂いを嗅いだ。
「遠慮するよ」
「大丈夫だって。
ちゃんと男湯にいれてやるから!」
女湯に入ったら、さすがのヨウスも捕まる。
「トルディス、そいつがお前が言ってた美人か?」
トルクの肩に、一人の武科生が手を置いた。
屈強な肩はトルクよりも大きい。
「そうそう。
美人だろ?」
武科生たちに立ちはだかれ、ヨウスの周囲が陰った。
物凄い威圧感を感じる。
自分はこんなに小さかっただろうか。
令息でもあり、武科生でもある彼らは堂々としていた。
その迫力は他の生徒が遠巻きに去って行くほどだ。
いつもはルフェランに世話を焼かれているトルクが、自然に馴染んでいるのがおかしい。
「本当に男か?」
別の武科生がヨウスの前髪をヒョイと上げた。
至近距離でふーんと唸りながら、品定めの目線で眺める。
堪らずヨウスは一歩退いた。
前髪がハラリと落ちて顔を隠す。
ヨウスの前髪を逃した手を自分の顎にあて、ニヤリと笑う武科生。
「なるほど。
トルディスが惚気るだけのことはある」
「…………」
「ノロケはないだろ、サクス?」
サクスと呼ばれた武科生の背をトルクが叩くと、彼はトルクを見てニヤリと笑った。
「ヘタなご婦人より相手になる」
「おいおい、止めてくれよ?
俺がランたちに殺される」
「文科生に何言ってるんだ。
都に帰ったらお堅い騎士になるんだろ?
遊べるのは今のうちだぞ」
「止めてくれ、フィード」
武科生たちの弄りを払い、トルクがヨウスの前に立つサクスを押し退ける。
「司祭様のところか?」
「いや、今日は……図書室に」
「行けよ。
ヘンなのに捕まらないようにな」
肩を掴まれて反転させられる。
軽く背中を押されて歩きだしたが、しばらくはトルクたちの会話が耳に届いていた。
「フロで剥いてみたらはっきりするだろ」
「剥かなくても男だって」
「見たことがあるのか?」
「ないけど……」
「…………」
身の危険を感じたヨウスは、一度も振り返らずトルクたちから離れた。
自分だけ不合格だったことなど気にもとめないふりをする。
「今日から史学も入るんだっけ?」
「文学を増やしても、講師の授業は増えないし」
「史学はどっちを?」
「国史と帝史を二・一くらいで」
「帝史はキッついよ~?」
「らしいな。
だから試験は国史を受けるつもりなんだ」
賢明だね、とルフェランは笑った。
二人はそれぞれの教室に向かうべく別れ、昼休みに這い出て来たトルクと三人で昼食を摂った。
午後からは、まだ残っている酒を流すんだと、トルクは訓練場へ行くようだ。
「ヨウスも一緒にどうだ?
汗かくと気持ちイイぞ!」
爽やかに笑う口元の白い歯が眩しい。
「ヨウス止めろ。
死ぬぞ」
ルフェランが止めてくれた。
もちろん、まだ死ぬ気はない。
トルクは飛び跳ねるような足取りで行ってしまった。
あとは史学か文学の初級を取るだけだ。
気が楽になったのだろう。
「夕方はクワイトル司祭様のとこ?」
「いや、今日は休み。
お二人で会食に呼ばれているらしい」
「じゃぁ、僕は実家に帰るから、また明日」
ヨウスは文学、ルフェランは法学の授業を受けにまた別れた。
午後の授業が終わり、本館から出たところでトルクを見かけた。
武科の生徒と数人連れ立って、街に出かけるようだ。
大柄な集団で、嫌でも目立っていたので、声をかけるのを躊躇った。
しかし、ヨウスに気付いて、トルクが手を振る。
「ヨウス!
フロに行かないか?」
互いに近付いたところで、ヨウスの鼻は汗の匂いを嗅いだ。
「遠慮するよ」
「大丈夫だって。
ちゃんと男湯にいれてやるから!」
女湯に入ったら、さすがのヨウスも捕まる。
「トルディス、そいつがお前が言ってた美人か?」
トルクの肩に、一人の武科生が手を置いた。
屈強な肩はトルクよりも大きい。
「そうそう。
美人だろ?」
武科生たちに立ちはだかれ、ヨウスの周囲が陰った。
物凄い威圧感を感じる。
自分はこんなに小さかっただろうか。
令息でもあり、武科生でもある彼らは堂々としていた。
その迫力は他の生徒が遠巻きに去って行くほどだ。
いつもはルフェランに世話を焼かれているトルクが、自然に馴染んでいるのがおかしい。
「本当に男か?」
別の武科生がヨウスの前髪をヒョイと上げた。
至近距離でふーんと唸りながら、品定めの目線で眺める。
堪らずヨウスは一歩退いた。
前髪がハラリと落ちて顔を隠す。
ヨウスの前髪を逃した手を自分の顎にあて、ニヤリと笑う武科生。
「なるほど。
トルディスが惚気るだけのことはある」
「…………」
「ノロケはないだろ、サクス?」
サクスと呼ばれた武科生の背をトルクが叩くと、彼はトルクを見てニヤリと笑った。
「ヘタなご婦人より相手になる」
「おいおい、止めてくれよ?
俺がランたちに殺される」
「文科生に何言ってるんだ。
都に帰ったらお堅い騎士になるんだろ?
遊べるのは今のうちだぞ」
「止めてくれ、フィード」
武科生たちの弄りを払い、トルクがヨウスの前に立つサクスを押し退ける。
「司祭様のところか?」
「いや、今日は……図書室に」
「行けよ。
ヘンなのに捕まらないようにな」
肩を掴まれて反転させられる。
軽く背中を押されて歩きだしたが、しばらくはトルクたちの会話が耳に届いていた。
「フロで剥いてみたらはっきりするだろ」
「剥かなくても男だって」
「見たことがあるのか?」
「ないけど……」
「…………」
身の危険を感じたヨウスは、一度も振り返らずトルクたちから離れた。