「ルリのことで」
「……ルリ……?」
ヨウスは酒杯を仰いで飲み干した。
強い。
「昼間、ルリを頼って、俺に用のある子が来たんだ」
「……うん?」
「実習で旨くできたからって、お菓子を差し出された」
よくあることだ。
ティセットが学生だったときから毎日のように、ヨウスに貢ぐ学生は絶えなかった。
だがヨウスは、
「受け取らなかったんだろ?」
全員から貰うわけにはいかないからと、最初から何も受け取らない。
なのに、きっと今回は、趣向が違っていたのだろう。
わざわざ話すなんて。
「俺が離れたあと、ルリが八つ当たりを受けたんだ」
「ケ、ケガは?」
「ないと思う」
「いつ?」
「今日。
ティスのところに来る前に」
怪我がなかったことには安心した。
ルリは何も言わなかったから、ヨウスが教えてくれるまで知らなかったはず。
ヨウスのおデコ殴打事件は知らせに来たのに。
心配させたくなかったのだろう。
ルリらしいと思う反面、複雑だった。
その後、何事もなかったようにヨウスとやって来たのだと思うと、余計に。
「…………」
胸の辺りに靄つくものがあった。
強い酒に当たったのかもしれない。
「ごめん……。
もう少し気をつけるよ」
「って言っても、キリないだろ?」
「…………」
「何なら、彼女でも作ったらいい。
諦めるやつもいるかも」
「…………」
ヨウスは良い顔をしなかった。
こんな美人が女の子と手を繋いで歩くなんて光景は想像できなかった。
現実にあったとしても、姉妹か友人だと思うだろう。
「ちなみに、好みとかは?」
「好み?」
「こんな子が好き、とか」
「…………」
難しいことだっただろうか。
ヨウスは真剣に悩みだした。
まだしばらくは、彼女のかの字も縁がなさそうだ。
散々呑み散らかした学生たちは、ご機嫌なトルクを引き摺って帰った。
みんなフラフラしていて帰り着けるか不安だったが、東寮長のランスが迎えに来てくれた。
さすが寮長。
鉄面皮だろうと頼れる男だ。
あれからヨウスは店終いの手伝いまでしてくれて、いつもと変わらない頃に上がることができた。
いつもはなかなか話せないからと学生たちに注文の嵐を受け、気疲れしたようだ。
遅いから泊まっていけ、なんて言えない居候のティセット。
せめて送って行くと言ったのだが、ヨウスは断った。
「ティス、俺は女の子じゃないんだ」
ご尤も。
「気をつけてな」
「ありがとう」
「こっちこそ、助かったよ」
おやすみ、と言葉を交わして二人は別れた。
それから二日後の朝。
仕入れから帰って来たティセットは、トルクの姿に目を丸くした。
「どうした?
忘れ物か?」
何も落ちていなかったはずだ、と思いながら品を荷車から降ろしていく。
その腕を、トルクに強く掴まれた。
「おい、痛い」
ティセットの声など耳に入らない様子で、トルクは告げた。
「……ヨウスが、襲われた」
* *
祝宴の翌日。
いつものようにルフェランが寮室まで迎えに来た。
「トルクは潰れてて、今日は休みなんだ」
やはり二日酔いか。
「ランスは?」
「朝は新入りの面倒見て、午後からは寮長会議」
「忙しいんだな」
「だからあんな顔になるんだ」
ヨウスはせめて笑いを噛み殺した。
二人で並んで歩いていると、東寮生から「おめでとう」と声がかかる。
もちろん、ヨウスにだ。
言われるたびに、隣りの肩がピクリと動くのが少しかわいそうな気がした。
「……ルリ……?」
ヨウスは酒杯を仰いで飲み干した。
強い。
「昼間、ルリを頼って、俺に用のある子が来たんだ」
「……うん?」
「実習で旨くできたからって、お菓子を差し出された」
よくあることだ。
ティセットが学生だったときから毎日のように、ヨウスに貢ぐ学生は絶えなかった。
だがヨウスは、
「受け取らなかったんだろ?」
全員から貰うわけにはいかないからと、最初から何も受け取らない。
なのに、きっと今回は、趣向が違っていたのだろう。
わざわざ話すなんて。
「俺が離れたあと、ルリが八つ当たりを受けたんだ」
「ケ、ケガは?」
「ないと思う」
「いつ?」
「今日。
ティスのところに来る前に」
怪我がなかったことには安心した。
ルリは何も言わなかったから、ヨウスが教えてくれるまで知らなかったはず。
ヨウスのおデコ殴打事件は知らせに来たのに。
心配させたくなかったのだろう。
ルリらしいと思う反面、複雑だった。
その後、何事もなかったようにヨウスとやって来たのだと思うと、余計に。
「…………」
胸の辺りに靄つくものがあった。
強い酒に当たったのかもしれない。
「ごめん……。
もう少し気をつけるよ」
「って言っても、キリないだろ?」
「…………」
「何なら、彼女でも作ったらいい。
諦めるやつもいるかも」
「…………」
ヨウスは良い顔をしなかった。
こんな美人が女の子と手を繋いで歩くなんて光景は想像できなかった。
現実にあったとしても、姉妹か友人だと思うだろう。
「ちなみに、好みとかは?」
「好み?」
「こんな子が好き、とか」
「…………」
難しいことだっただろうか。
ヨウスは真剣に悩みだした。
まだしばらくは、彼女のかの字も縁がなさそうだ。
散々呑み散らかした学生たちは、ご機嫌なトルクを引き摺って帰った。
みんなフラフラしていて帰り着けるか不安だったが、東寮長のランスが迎えに来てくれた。
さすが寮長。
鉄面皮だろうと頼れる男だ。
あれからヨウスは店終いの手伝いまでしてくれて、いつもと変わらない頃に上がることができた。
いつもはなかなか話せないからと学生たちに注文の嵐を受け、気疲れしたようだ。
遅いから泊まっていけ、なんて言えない居候のティセット。
せめて送って行くと言ったのだが、ヨウスは断った。
「ティス、俺は女の子じゃないんだ」
ご尤も。
「気をつけてな」
「ありがとう」
「こっちこそ、助かったよ」
おやすみ、と言葉を交わして二人は別れた。
それから二日後の朝。
仕入れから帰って来たティセットは、トルクの姿に目を丸くした。
「どうした?
忘れ物か?」
何も落ちていなかったはずだ、と思いながら品を荷車から降ろしていく。
その腕を、トルクに強く掴まれた。
「おい、痛い」
ティセットの声など耳に入らない様子で、トルクは告げた。
「……ヨウスが、襲われた」
* *
祝宴の翌日。
いつものようにルフェランが寮室まで迎えに来た。
「トルクは潰れてて、今日は休みなんだ」
やはり二日酔いか。
「ランスは?」
「朝は新入りの面倒見て、午後からは寮長会議」
「忙しいんだな」
「だからあんな顔になるんだ」
ヨウスはせめて笑いを噛み殺した。
二人で並んで歩いていると、東寮生から「おめでとう」と声がかかる。
もちろん、ヨウスにだ。
言われるたびに、隣りの肩がピクリと動くのが少しかわいそうな気がした。